津軽系こけし

アスの津軽系こけしのレビュー・感想・評価

アス(2019年製作の映画)
4.0
This is America.


ハンドアクロスアメリカ。人はなにかと貧困層のため、恵まれない人達のためと何か催しをする、ハンドアクロスアメリカなんかはアメリカのチャリティ史の中でも一際賑わいを見せたイベントでテレビでも特集されたり大統領などの著名人が参加したりと注目が集まった。
この作品にはこのハンドアクロスアメリカに……というよりアメリカ人全員の偽善に対する熱烈な批判の意が込められているような気がする

遊園地を楽しみ、旅行を楽しみ、一家団欒の時間を過ごす。しかしその影には空の青さを知らず、家族とのひと時を過ごすこともままならない人たちがいる、貧困層であれ、何かしらのマイノリティであれ、あのドッペルゲンガーはそうした社会の影のメタファーであると思う。
そんな者達からしてみればハンドアクロスアメリカなど注目集めの偽善にしか映らないだろう、手を繋いでなにになる?そんなアート性を注視できるほどの余裕があるのは上の人達だけだろう。この作品はそんなアメリカ人の善意ボケに対して中指を立てたのだと思う。

追い込まれている側の者が豊かな人間達に一種の復讐をするというシナリオは私の人生ベスト映画「ジョーカー」にも通ずる構図であるためか後半の展開にはそれなりに興奮するものがあった。
けれど私はこの映画を好きにはなれそうにない、というよりこの監督があまり好きではない。「ゲットアウト」の特典映像で監督はホラーというジャンルを以下のように解釈している。

「ホラーとコメディは紙一重、目標が違うだけ」

この監督さんは元コメディアンらしくその経歴あってかホラーとコメディが混在しているような作風を好んでいる。
たしかにホラーとコメディが共通点の多いことは認める、しかしそれはあくまで”笑いになってしまう場合”であり、わざわざ狙うものではないと私は思う。アメリカ人はやたらホラーに対して笑いを求める姿勢が最近強まっているが私はホラー映画は恐怖のみを描くべきジャンルだと考えている。
もちろん「スクリーム」などコメディを交えることで作品の質を高めているものであれば問題はない。しかしわざわざシュールな空気感にしたり、間を置いたりする必要が果たしてあるのだろうか?

扱う題材は素晴らしいし役者陣のお芝居には目を見張るものがあった、でもこんなに真面目な題材なのになぜ面白おかしくしたがるのだろう。コメディを狙うにしてもこれは狙いすぎ。
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