にくそん

逆位置のバラッドのにくそんのレビュー・感想・評価

逆位置のバラッド(2019年製作の映画)
3.2
大好きな内田慈さんが出演されているということで、観てみた。内田さんはじめ、キャストみんな熱演だったと思う。主人公・ボブ(高山猛久)のキャラは愛せるし、眠る愛娘と額を合わせる千尋(内田)の横顔がとんでもなく綺麗。冒頭の墓地の撮り方なんかにも、思い入れや情熱を感じる。こういうのやってみたい!という欲求が前面に出ていて、作り手の夢や青春の匂いがする。

ただ、どうひいき目に見ても、脚本が弱い。なんか、鉛筆の下書きのままの台本で撮っちゃったみたいだ(いまどき鉛筆で書く人いないだろうけど)。探偵に依頼が持ち込まれる理由や、刑事が探偵とはいえ一般市民とタッグを組みたがる流れ、この人にわからないことをこの人は察するみたいなギャップ、犯人の動機など、列挙しきれないほど不自然なことが多かった。

恋愛ものなら理屈が通らなくてもまだいいのかもしれないけど、サスペンスだとちょっと厳しい。低予算で映画を撮ろうと思ったら、撮影期間を長く取れないのはわかる。でも、脚本を完成させるまでに時間や人手をかけることはできそうなのに。

上映の後、舞台挨拶を拝見した。なんとも人のよさそうな監督さんで、キャストもこんなコロナった中でマスクもつけずに登壇して楽しいお話を聞かせてくださった。内田さんは役へのアプローチを、その人物の苦手なことや弱いところを入口にしてやっていくとおっしゃっていた。貴重なお話を直に聞けて、うれしかった。

あー、難しいな。私は普段、自分が低い点をつけた映画が、高く評価されているのを見ると「えー」という気持ちになる。でも、この映画に関しては、私は誉められないけど成功してほしいっていうかなんていうか。とても複雑な気持ちだ。
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