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無垢なる証人のmaverickのレビュー・感想・評価

無垢なる証人(2019年製作の映画)
4.7
チョン・ウソン主演の2019年の韓国映画。


涙腺崩壊の感動作。チョン・ウソン主演作ということで個人的に楽しみだったが、大幅に期待値を越えてきた。冒頭の入りからすでに良作の雰囲気を醸し出している。大胆な設定の話だが、ひとつひとつのシーンが分かりやすく描かれていて落ち着いて観れる。微笑ましく温かみがあり、法廷シーンでの緊迫した展開に盛り上がる。正義とは、良心とは何かを問う熱いテーマが心に響く。最後は感動の波が押し寄せ、これでもかと畳み掛ける。こんなに素晴らしい感動作だったとは。

主演のチョン・ウソンは本作で第40回青龍映画賞(同時期に行われる大鐘賞と並ぶ韓国の2大映画祭で、韓国で最も権威のある映画賞)の主演男優賞を受賞。理想と現実の狭間で揺れ動く主人公の姿が観る側の心を掴む。様々な役柄に挑戦して自身の演技の幅を広げているが、今回は久しぶりに彼らしいぴったりな役だったと思う。年齢を重ねた今の彼に最適な役であり、大人の魅力がたっぷりでさらにファンを獲得することだろう。

本作の鍵を握る少女を演じるのが、『神と共に』シリーズのキム・ヒャンギ。自閉症という難しい役柄に挑戦しているが、本当にそういう障害を持った人に見える。驚くべき演技力である。この作品では自閉症の人の特徴を取り上げており、いろいろと興味深かった。自閉症の人の視点で見ると、こんなにも大変な世界なんだなと痛感する。彼らは自分の世界から出ることが出来ない。理解しようとするには自分達がその中に入って歩幅を合わせる。そうすれば自ずと理解も出来、コミュニケーションも取れるようになる。なるほどと。自閉症の少女と、主人公である弁護士との交流が微笑ましかった。

自閉症の少女が事件現場を目撃しており、その証言から第一発見者である家政婦が容疑者となる。事件に関しての真相解明、その点ではシンプルではある。面白いのは自閉症の少女が証人という設定であり、その活かし方が上手いなと。どう証言を立証させるのかに注目がいく。そして主人公は証人とは敵対する弁護側である設定も面白い。彼女を利用して裁判を有利に進めようと画策するが、少女の無垢さにそこがぐらついてくる。作品としてどう落としどころを用意するのか、そこも注目ポイントだった。この二人の関係性はもちろん、主人公のお父さんのエピソードとか、自身の幸せについての恋の行方とか、どれも丁寧に描かれていてとても素敵な物語だった。


弁護士って大変な仕事だと思う。人間の汚い部分を常に見せられる。裁判をするには弁護士が必要。どんな大罪人でも弁護しなきゃいけない。正義の味方だけやりたくてもやれないからね。犯人側の弁護を叩く人もいるけど、それが必要だからやっているわけで。まぁ何にせよ正義の名の下に判決は下されてほしい。司法まで腐ったら国は終わりだ。

世の中は矛盾だらけ。正しい人間が報われるというわけでもない。そんな生き方をしても馬鹿らしいと思うこともある。それでもやっぱり正しいことをみんな求めている。どんな悪人も良心を全て捨て去ることは出来ないと、そう思う。正しいことをすべきと思ってくれること。それがこの作品に込められた願いであろう。
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