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ロード・オブ・カオスのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

ロード・オブ・カオス(2018年製作の映画)
3.2
【停滞に鮮血、それは絶望か希望か?】
トーキョーノーザンライツフェスティバル2020を震撼させた『ロード・オブ・カオス』が2021/3/26(金)より日本解禁となる。本作はマコーレー・カルキンの実弟ロリー・カルキン、ヴァル・キルマーの息子ジャック・キルマーが出演していたりと面白いキャスティングになっている本作を観てみました。

正直、ノルウェーのバンド「メイヘム」のことやブラックメタルのことは分からないし、本作を観ただけでは魅力を見出せなかったのでそういったことは他の人の感想を参考にしてほしい。自分は別の角度から感想を書いていく。

北欧といえば、ムーミンやベルイマンの映画のように内なる自分と闘う文化がある。冬は寒くて長い。それだけに気持ちが落ち込みがちな北欧において、建築面では陽光を沢山取り入れるガラスや白の色彩を使った技術が使われている。一方で、ヘヴィメタやエアギター、本作で描かれるブラックメタルなど空元気のような荒々しい音楽パフォーマンスが盛んに行われている。映画においては、特にデンマークが顕著だが暴力的な作品が量産されているような気がする。内なる陰鬱さを解放する避雷針のような役割を文化を担っているのではないだろうか?

「メイヘム」を描いた伝記的本作は、音楽伝記映画にもかかわらずテンションは一定を保っている。てっきり、ミュージシャンのドラマティックな人生が展開されるのかと思いきや、停滞に停滞を重ね、微かなステージに立つ時だけが盛り上がりの絶頂となっている。予告編でも魅せてくれる教会炎上シーンも、静かで地味だったりする。これはどういうことだろうか?先日観たデヴィッド・クローネンバーグの『クラッシュ』に近いものを感じた。内なる暴力性の静かな爆発に癒しを求める者たちが停滞のモヤモヤの中で自己を解放させる場所を追い求めているのではないだろうか?彼らは満足しない。あまり客がこないレコード屋で駄話をし、部屋の一角で練習をする。一般人の平凡な人生と変わりない。その中で些細な変化を求める者たちのもがきが生々しく描かれている。だから、伝説的ミュージシャンの遠い世界の物語ではなく、我々の物語のようにみえるのだ。今、コロナで閉塞に押し込められ、微かな変化を求めてもがき苦しむ者にとってこの作品は救いの処方箋となることでしょう。
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