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ロード・オブ・カオスのblacknessfallのレビュー・感想・評価

ロード・オブ・カオス(2018年製作の映画)
4.0
自殺、教会放火、ゲイ虐殺、内ゲバ殺人、ノルウェーブラックメタルシーンのスキャンダルな狂騒をシーンの頂点に君臨したバンド"メイヘム"のリーダー、ユーロニモスの視点から画いたやつ。

自分がノルウェーのブラックメタルのことを知ったのは音よりも先に断片的に伝わってくる情報からだった。
メイヘムのバンドのボーカルはピストルで頭を撃って自殺した、その死体をジャケにしたアルバムをリリースした。
メイヘムを中心にインナーサークルという悪魔主義のカルトが形成されて、ガチな悪魔主義を実践してる。教会を何軒も放火してる。

大人の良識があるメタラーならこのガチな悪魔主義で「これ痛い奴等」だと分かるんだけど、自分は当時良識の弱いバカだったんで「教会燃やすなんてスゲー!!」「ノルウェーのブラックメタルサイコー😍💓💓😈」てなって音聴く前にファンになってしまって、、笑
何でこんな痛い感じに仕上がってしまったかと言うと、メタルをレベル・ミュージックとして捉えていて、他のサタニックなバンドが実は普通の社会人であることに失望してたからなんだよね。例えば、スレイヤーなんかもかなり過激なサタニックな曲をやってたけど、ボーカル/ベースのトム・アラヤは「おれ、クリスチャンだし神様信じてるから、あれはアートとして表現でやってるだけだから😜」的なこと言ってたりして、そんな中でノルウェーの面々がそんなすごいことをやってると聞いて「これこそ本物のメタルだー!」って吹き上がってしまったわけ。こうして書いていると本当にバカで恥ずかしくなってくる。

で、何でこの人達はこんなことになってしまったのか?てのも、上記のおれとまったく同じで先人のスラッシュメタルやデスメタルのエンタメだけの過激さに不満があったからなんだと分かる。
そして、メイヘム始めとするこのシーンのバンドは音楽的な才能があり以前にはなかった新しいブラック・メタルのスタイルを作り上げる。
それまでプリミティブで邪悪なだけだったブラックメタルに寒々とした荒涼感と峻厳な美しさがある音像を確立した。
これは同時代のフィンランドのブラックメタル、アーチゴートやインペイルド・ナザレーンなんかと聴き比べてみれば分かる。この2バンドはとにかくプリミティブで邪悪でアグレッシブだけどノルウェーのバンドのようなコールドネスな感触は皆無だから(それはそれで大好きだけど♥😈)

そしてシーンが大きくなり頂点に君臨していたユーロニモスにライバルが現れる。
後に"バーズム"というバンド(1人でやってるからプロジェクトだけど)を作るヴァーグ。

それまで無邪気なメタル好きの集団に過ぎなかったインナーサークル(映画ではブラックサークルと名称変更されてた。ダサくない?)がヴァーグの教会放火を機に誰が1番過激でリアルな悪魔主義の実践者かを競い合うようになる。
バーズムの音楽性の高さもあり、ヴァーグの存在感がインナーサークル内で増してくる。
そもそも自身とバンドのカリスマを高めるために過激なアジテーションをしていただけで実践なぞ考えていなかったユーロニモスも後に退けなくなりヴァーグに引きずられる形で教会を放火する。
あくまでシーンに君臨したいだけのユーロニモスと悪魔主義の実践を先鋭化させていきたいヴァーグのサークル内の主導権争いから関係が悪化し、ヴァーグがユーロニモスを刺殺してインナーサークルは崩壊する。
要するにこれって古今よくあるどこにでもいる若者達の痛々しいイキリ合いから友情が崩壊する愛憎劇なんだよね。若気の至りからの破綻のスケールが破格なだけで。

そのしょうもなさと言うか身も蓋もなさをライトなタッチの青春ドラマとして画いたのは正解だと思った。
実際そんな感じだったと思うし笑
その図抜けて美しくコールドネスな音楽的魅力からカリスマ的に、神話的に画くこともできたと思うけど、あえてそれをしなかったことを評価したい。

映像もよかった。マニア目線になるけど当時のメンバー達が着てるバンドTシャツや衣装の再現性の高さに驚いた。これは監督がインナーサークルの面々に多大な影響を与えたバンド、バソリーのドラマーだった人だからだろうね。シーンのこともよく知ってるはずだから笑
ヴァーグがユーロニモスを刺殺するシーンの陰惨なタッチとカメラワークも素晴らしかった。
"鮮血の美学"や"アイ・スピット・オン・ユア・グレイブ"とかの70年代のゴア・バイオレンス映画の陰惨な生々しさがあり、この事件のトーンに恐ろしくハマってた。

こうしてる見ると音楽以外は本当にバカで痛々しい人達であったと改めて思うけど、同時に何か妙に愛おしくもなった。
自分も当時ノルウェーにいたらインナーサークルに入ってたような気がする。ビビりながら教会に火をつけてうまく燃え上がったから、ウエーイ!ってバカ騒ぎするシーン、あのすごい反逆的なことしたってカタルシスはちょっと羨ましく感じた笑
後に判明するヴァーグのナチス、白人至上主義も含めて支持はできないんだけど、とにかく反抗したい、周りのつまらない連中と違うと思いたいって衝動自体は痛いほどよく分かるからね。

メイヘムのde mysteriis don sathanasほど禍々しく美しいブラックメタルアルバムはもう出ないと思う。
音楽性だけの話なら出てくるのだろうけど殺人の被害者(ユーロニモス)がギターで加害者がベース(ヴァーグ)をプレイしてる。こんな呪われたアルバムは今後リリースされないと思うから。
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