Jeffrey

アブラハム渓谷のJeffreyのレビュー・感想・評価

アブラハム渓谷(1993年製作の映画)
3.5
「アブラハム渓谷」

冒頭、誰もが魅了される女、エマ。富裕な医師カルロス、結婚、自然の中の不自由のない生活、夫婦生活、抵抗と奔放な遍歴、葡萄摘み、ベッドの上でバイオリン。今、初秋のラメゴ聖母祭で出逢う少女の話が始まる…本作はポルトガルの巨匠マノエル・デ・オリヴェイラが1993年カンヌ国際映画祭監督週間25周年記念特別招待作品として出品されたフロベールの名作小説の「ボヴァリー夫人」を堪能的にした作風で、同じ年の東京国際映画祭では最優秀芸術貢献賞を受賞している。この度、DVDにて初見したが秀作だった。しかし3時間超えは堪える…。


確か、22歳で初めて監督した映画「ドウロ河」は、本作の舞台になっている。やはり思い出深い土地なのだろうか…。
この作品は風光明媚なポルトガルを舞台にしている分、ワンショットが美しすぎる。


本作は、冒頭から渓谷の描写で始まる。そして男がナレーションとしてこの地を説明する。続いて、車窓の窓から写し出される古民家の画、列車の走る音、只管変らぬパイヴァ川の美しい風景。さて、物語はポルトのドウロ河流域のアブラハム渓谷の農園を営む医者カルロスが聖母祭の日に父に連れられた14歳の少女エマに出会う場面から始まる。彼は少女の美しさに魅了される。そしてその少女は片足を引きずっている。だが、美しく成長し次第に男たちを惑わすような資質を持ち始める。そして様々な出来事が起こり、カルロスと結婚する。だが、愛のない結婚と孤独が次第に肉体関係と変わる…と簡単に説明するとこんな感じで、とにかく風光明媚な自然豊かな風景がフレーム内に収まる映画で、全編通してナレーションの声を導入した固定画面のカットバックを主としている。更に一つのシーンの動きの連続性を確実に維持した構成で、彼の集大成でも良いくらいの作品だ。



また、女性たちが見せるエロスが官能的な描写を映し出し、それと打って変わって美しい風景が挟まれるような形で描き出されていく。この映画はひたすら男性のナレーションで主人公のエマを語るのだが、残念ながらセックスシーンなどそういった演出はなくて、エロチシズムを見せている。そして色鮮やかな花や樹影の美しさには息を飲む。そして何よりもこの作品に出演している女性たちが全員特徴的で、またそれぞれみんなに魅力を与え、アグレッシブルに対応させている。

それとは対照的に男たちはダメメンズになっている。そこがまた滑稽で笑えてしまう。そして魅力的なベートーベンやシューマンらの作曲家が月の光の曲と名付けたピアノ曲を集めて使用した美しいシーンは印象的に残る。

そして、ラストの汽笛…。

ポルトガルの伝統的な地域名であるエストレマドゥーラ地方の語源となった河川は彼にとっては誰よりも主役であり、歴史を語る人物なのである…。




余談だが、この作品が日本初の彼のロードショー作品となっているそうだ。この作品189分版のDVDを見たがどうやら後に作られた203分のバージョンも存在するらしい。
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