KnightsofOdessa

ボーダー 二つの世界のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ボーダー 二つの世界(2018年製作の映画)
4.0
[二元論では語れない境界の"あちら"と"こちら"] 80点

昨年のカンヌ国際映画祭は私の好きそうな作品がズラッと並んでいたので正に最高って感じだったが、そんな中"ある視点"部門で最高賞を受賞した本作品を覗いてみた。監督のアリ・アッバシはイラン産まれでスウェーデンに移住した経緯があり、本作品は長編劇映画二作目である。

港の税関職員のティナ。彼女は特殊能力的な嗅覚によって、麻薬密輸の青年は勿論のこと、児童ポルノ所持のおっさんの持っていたスマホのSDカードまで摘発する。適材適所の具現化って感じの設定。顔が醜いのも超人的な嗅覚も、物語としてそこにあるのに、ある種寓話的な側面も帯びている。人には誰しもコンプレックスがあり、人には誰しも特技がある。それを極化して表現したのが主人公のティナである。同僚や旦那はティナの容貌を気にしないし、何かあると言えば彼女を信じて待ってくれる。ハリウッド的な"無いって言ったら無いんだよ!"みたいな無駄に主人公を追い込んでヘイトを貯め込むこともない。逆に一般人は彼女の顔を不思議そうに眺めるし、彼女の能力を知らない警察は児童ポルノ摘発の原理が理解できない。あと、飼い犬にめっちゃ吠えられてる。これも一種のボーダーである。

そんな中、ティナと同じ容貌をもったヴォーレが現れる。ティナはヴォーレにも他の犯罪者と同じ"臭い"を感じるが、調べても何も出てこないどころか、尻に同じ様な傷があることまで分かってしまう。そして、ビュッフェのサーモンを手で貪り、木に集る虫を食べるヴォーレをティナは自宅に迎え入れる。何も考えてなさそうな旦那を尻目に、ティナとヴォーレの距離は縮まってゆく。ヴォーレに感じた"臭い"は同族の臭い、超訳すれば"恋の臭い"だったのだ。この辺りから一気に一般化する寓意性は鳴りを潜め、強烈なダークファンタジーへ突き進んでゆく。

原題の通り、この映画には様々な種類のボーダーがある。国境という単純なものから、男女引いては種族の壁に至るまで、多種多様な"境界"が存在するのだ。しかし、存在する全ての"境界"をあり得ない方法で軽々と越え続け、物語は遂に境界の"あちら"と"こちら"という二元論では語れない世界に到達する。

アッバシ監督が移民を経験したという事実も反映されているのだろうか。ボーダーを越えた者と越え(られ)なかった者。無限に越えられない両者の間にあるボーダーだけが、永遠に横たわり続けていた。