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イン・ザ・ハイツのumisodachiのレビュー・感想・評価

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
4.9


リン=マニュエル・ミランダによるブロードウェイミュージカルの映画化作品。監督は『クレイジー・リッチ!』のジョン・M・チュウ。

NY。移民が多く暮らすワシントンハイツで雑貨店(というかコンビニというか)を営むウスナビは、親戚のソニーと一緒に忙しく働きながらも、いつか両親の故郷であるドミニカ共和国に帰る日を夢見ていた。ホワイトハイツの人々はまるで家族のように親密なコミュニティを築いていて、近所の美容院で働くデザイナー志望のヴァネッサにウスナビは密かに恋心を抱いている。ウスナビの親友ベニーはタクシー運転手。ある日、ベニーの雇い主の娘であり幼馴染のニーナが進学先のスタンフォードから帰省してきた。どうやら深刻な秘密を抱えているようで……。

素晴らしかった。諸手を挙げて万歳するしかない。素晴らしかった本当に。

この作品はブロードウェイ上演時にNYでも観ているし、日本での公演も初演時に観ている。ヒップホップにラップを駆使した新感覚の音楽性と、躍動感溢れる身体性、NYの移民たちの今を切り取ったような時代性など、それまで観たことがなかったタイプのミュージカルだったので大いに刺激を受けたのを覚えている。良い意味でゴチャゴチャした群像劇で、自分もコミュニティの一員になったような感覚になったものだ。

今回の映画化は「トランプ後」and「コロナ禍なし」の設定でバージョンアップされ、ストーリーなど諸々で改変が加えられている。より時代性を反映した内容になっているし無理がない。そして何よりも凄いのは、映画でしかできない表現を最大限に駆使して群舞を描いていることだ。

冒頭にリンクを貼った冒頭の8分間はまさにミュージカル的なオープニングナンバーなのだが(ビッグナンバーであり、登場人物をひとりひとり丁寧に説明する内容)、この時点で素晴らしくて涙が出てきてしまった。NYの街中でとんでもない人数を躍らせていることに加え、窓ガラスに群舞を映りこませるなど舞台では不可能な演出を畳みかけてくる仕掛けに目を見張る。

本作では、「こちらからステージ上のパフォーマンスを眺める」という視点はほとんど存在しない。どんなミュージカルシーンでもあらゆる方向からのカットが短時間で切り替わり続けるし、そもそも平面的なアクティングスペースでの群舞がほとんどない。街中だったり、公営プールだったり、建物と建物の間だったり、2階建てのクラブの中だったり。水平方向に異様に広い空間か、空間面積には制限があるが垂直方向にも展開する空間で、劇場では考えられない数の人間が踊りまくる。『イン・ザ・ハイツ』は良い意味でとてもゴチャゴチャしたミュージカルで、そのゴチャゴチャゆえに他では味わえないような熱量を帯びている作品だと思うのだが、その熱量が映画化によってさらに増幅している感じ。

しかも、「現実世界と地続きなんだよ」というポイントを要所要所で入れてきているので、人々が生活を営み、それぞれが色々なことに悩んだり喜んだりしながら生きているという手触りを強く感じることができる。もちろん全員のパフォーマンススキルは鬼のように高い。想定で用意していた満点を軽くこえてきたなという感じ。舞台版とストーリーがどう変わっているのかなどは、日本公開時に実際に観て確かめてほしい。

しかし、「これはかつてのワシントンハイツの姿だ。今ではない」という意見も見かけたし、なによりもメインキャストにアフリカ系ラティーノ(かつ暗い肌の)のキャストがほとんどいないという点が批判されて大炎上していたりする。人種の違いがハッキリわからない私も素朴に「ベニー以外はライトな肌色なんだなあ。BWではどうだったっけ?」ってちょっと思ったので当然と言えば当然だろう(ちなみに、メイン以外のキャストには大勢いる)。しかも、それに対してのあるキャストのコメントがあまりにも不用意で燃えまくっている……この騒動について、アンチポリコレの立場から揶揄している日本人がいたが、ワシントンハイツにいる移民の多くがアフリカンラティーノならば、そうでないのはなんで?と感じるのは当たり前だと思う。これについては依然として炎上しているし、リン=マニュエル・ミランダ自身もコメントを出しているので興味がある方は調べてみてね!

これに関しては、またなにか書くかもしれません!日本公開前なので具体的なキャストととかの感想は今はやめておきます。







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