Shelby

イン・ザ・ハイツのShelbyのレビュー・感想・評価

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
4.8
運良くDOLBYシネマで見ることが出来た今作。毎度の事ながら、涙グズグズ、鼻水ズルズルの花粉症まがいな状態で映画館を後にした。

あらすじ
変わりゆくニューヨークの片隅に取り残された街ワシントンハイツ。祖国を遠く離れた人々が多く暮らすこの街は、いつも歌とダンスであふれている。そこで育ったウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニーの4人の若者たちは、それぞれ厳しい現実に直面しながらも夢を追っていた。真夏に起きた大停電の夜、彼ら4人の運命は大きく動き出す。

まず、一言。

最高でした。我が人生に一片の悔いなしとどこぞのラオウのような台詞がつい出てしまうほどに大満足。

本作は2008年にブロードウェイで上演された同名ミュージカルが元になっている。
大好物のミュージカル要素は然ることながら、映画から感じ取ったメッセージ性も自分の中ではドンピシャハマるものがあったためか、2時間半あっという間だった。序盤の500人余りで踊りあげる「In the heights」は圧巻の一言。
そして物語を彩るラテン系ミュージックとラップの見事な融合。上手く現代らしさを盛り込みながら観客を絶頂へと引き上げてくれる。移民たちの尊厳と誇りをソウルフルな音楽で、体がシートごと揺れ出すこと間違いなし。



ーーー以下ネタバレ





故郷に帰りたいと常々思いながらコンビニ経営を続けるウスナビ。生活するのでやっと、豊かな暮らしは夢のまた夢。そんな彼が最終的に下す決断は、「ワシントンハイツに残ること」

生まれ育った故郷は大事だが、過去に囚われるのではなく、大切な人がいる場所こそが故郷なのだ、と。

帰るべき場所は、人が作るもの。
この観点は正直目からウロコ。もとい、目から大量の涙。今までの自分の中の概念を覆すには充分すぎるほどに強い衝撃を受けた。

ウスナビと違い、私は故郷のことが好きになれなかった。苦い家族との思い出、狭い閉鎖空間の中での同調圧力、下らない噂話、時代に取り残されたかのような薄汚い商店街。故郷とも呼びたくもないとさえ思っていた時期もあった。

そんな私の頑なな思いを見事にぶち壊してくれた。嫌いだと思っていた故郷も、私を構成する一部であり、そしてあの頃があるから今の私がいるのだ。家族が、街が、私を育ててくれたことを、どうして私は今まで忘れていたのだろう。

そして、故郷は1つでは無いのだ。幾つも存在し、「ただいま」と「おかえり」が交錯する場所こそ、帰るべき場所である。
街や人は変わりゆくもの。けれど、変わらない場所だって、あってもいいじゃないか。
私は自分で自分の人生の故郷を作っていけるのだと思うと、涙が溢れて止まらなかった。

私は今日この日、この映画と出逢えたことを誇りに思う。

登場人物の人間性やストーリー展開は正直二の次。ラテン系ミュージックの数々も素晴らしかったがこれまた脇役。移民というマイノリティな人々へスポットライトを当て、自分のルーツを愛し、変化を恐れず突き進む夢追い人の眩い光を放つ物語。日常をドラマチックに切り取り、ミュージカルに仕立てられてはいたが、間違いなく人生賛歌になってくれた作品だった。
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