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イン・ザ・ハイツのよーだ育休準備中のレビュー・感想・評価

イン・ザ・ハイツ(2021年製作の映画)
5.0
ドミニカ出身の移民が多く暮らすマンハッタンのワシントンハイツ地区。日々夢を追いかけて汗水流す彼らには、移民の子でありながら名門・スタンフォード大学に通う《希望の星》がいた。そんな彼女が秘密を抱えて帰郷してから、大停電までのカウントダウンが始まる。


◆明るく陽気なラテン系ミュージカル

ドミニカやプエルトリコといった中米系移民たちのコミュニティ《ワシントンハイツ》を舞台に、決して楽では無い生活でありながらも日々夢に向かって邁進する住民たちの生活が描かれる。夢と現実、新天地と故郷、伝統と誇り。そんな複雑な思いを胸の内に秘めながらも、歌って踊って、飲んで笑って、明るく前を向いて生きている彼らの姿に胸をうたれる。

ワシントンハイツで父親から引き継いだ商店を経営するUsnavi(Anthony Ramos)を中心に展開される人間模様。彼は歳の離れた従兄弟で、若く才能に溢れたSonny(Gregoory Diaz IV)と店を切り盛りするが、二人の関係が《市民権》と《世代間のギャップ》《価値観の違い》を上手く描いていた。

一代で築き上げたタクシー会社を経営するKevin(Jimmy Smith)は、スタンフォード大学に通う自慢の娘Nina(Leslie Grace)の為に必死で学費を工面する。ボスの娘に想いを寄せる配車係の好青年Benny(Corey Hawkins)を交えた人間模様には《期待と責任》《希望と現実》《親子愛とロマンス》がにじむ。

Usnaviが密かに思いを寄せるヒロインVanessa(Melissa Barrera)は、陽気な美容師トリオのDaniela(Daphne Rubin-Vega)、Carla(Stephanie Beatriz)、Cuca(Dascha Polanco)が経営するサロンで働きながらダウンタウンで暮らすことを夢見ている。ハイツで一番の人気者が、ダウンタウンではアパート一室借りることさえできない現実に打ちのめされる。

そんな彼らを見守る存在が年長者のAbuela(Olga Mereeiz)。彼女の口癖の通り《忍耐と信仰》を体現した女性。

メインの登場人物が決して多く無い上に繋がりがわかりやすい。テーマもハッキリしていて非常に見易かった。恥ずかしながらあまり知らない役者さんばかりだったけれど、歌も踊りもハイクオリティ。見応えも十分だった!


◆色彩豊かでハッピーなミュージカル

2005年に初演されたミュージカルの映画化という事で(直近で《ウエストサイド・ストーリー》を観たからかも知らないが)とてもモダンな作品のように感じた。

明るいラテン系の音楽というだけで無く、随所にラップが散りばめられているのも印象的だった。猛暑が続くニューヨークの早朝、ラップから始まり〝Washington Heights〟で締まる《In The Heights》から心は鷲掴み!

苦境、逆境に遭ってもフラストレーションを暴力に変換しない所が《ウエストサイド・ストーリー》と大きく違う所。所謂《善人》たちのドラマであり、とても軽やか。

LotRやSWを引用した出だしから、プールでの圧巻の演出が印象的な《96,000》では一攫千金を夢見る気持ちを華やかに歌い上げる。宝籤に夢を託しているが、移民たちが抱くアメリカン・ドリームそのものを体現しているようだった。

街のシンボルであるジョージ・ワシントン・ブリッジを望むマンションのテラスから始まり、あっと驚く無重力ダンスを披露するNinaとBennyもインパクト抜群。同じ移民同士にもかかわらず、《身分違いの恋》に身を置くような切ない二人が《When The Sun Goes Down》が流れている間だけはしがらみから解き放たれて《自由自在に》歌って踊る演出が素晴らしい。


起承転結の起伏は比較的緩やかに感じたものの、抜群の演出と華やかな群舞、ラテンの雰囲気が魅力的で兎に角ハッピーなミュージカルでした!《ウエストサイド・ストーリー》のような激しい感情の昂りとはまた違う良さがある作品。時代こそ違えど、同じ問題を抱える同じ街を舞台にしていながら、ここまでベクトルの違う傑作が生まれる事に驚いた。