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ある船頭の話のYACCOのレビュー・感想・評価

ある船頭の話(2019年製作の映画)
3.5
オダギリジョー初監督作品を鑑賞。 
まず特筆すべきは、撮影監督であるクリストファー・ドイルによる映像であろう。
まさに映像美と呼ぶにふさわしいシーンの数々に魅了された。
ウォン・カーワイ、ジム・ジャームッシュ映画が好きな人ならば、惹かれずにはいられないと思う。
オダギリジョーがインタビューで「劇場で見てほしい」と言っているのも、この映像美に自信があってこそに違いない。

そして、出演している多くの俳優たち。
主演の、柄本明はもちろんのこと、柄本明演じる船頭の男と川を渡る間の短いを時を交差しては消えていく人たちまで、主役級の俳優が入れ替わり立ち代わり登場しては消えていく。これだけの俳優が揃ったのは、オダギリジョー監督作品だったからだろう。重要キャストである、村上虹郎、川島鈴遥といった若手も良かったと思う。

今作でオダギリジョーは脚本も手掛けているとのことだが、船頭の男と、彼が生きる川、そして自然。そこで生きる人たち。時代の流れのなか消えゆくもの。
それらを多くを語らずに演技や表情、映像で見せていく。正直、オダギリジョーがこういった話を映画で魅せてくるのは少し意外だったが、見終わった今はこれが彼がやりたかったことなのだろうと思えた。

恐らくだけれど、彼が映画監督としてやりたかったことを詰め込んだ一作なのではないだろうか。(いや、もしかしたらこれでも足りなかったのかもしれない)
自分が書いた脚本を、クリストファー・ドイルの撮った映像で、自分が選んだ俳優たちに演じてもらう。
これはなかなか簡単にできることではないし、これまでの彼の俳優としての時間があったからできたことだと思う。

しかしながら、そうして撮ったものはどれも捨てがたく、147分といういささか長めの尺になってしまったのかもしれない。
途中、これは映画が長いのか、私が長いと感じてしまっているのか、どちらだろうという疑問が頭をかすめた。鑑賞後147分という尺を知り、前者だったのだなと腑に落ちた。せめて120分以内におさめてくれていたならば、長さを感じてしまうことはなかったかもしれないと思う。

今作は、監督オダギリジョーが自分が映画監督として見せたかったこと、伝えたかったことを表現してみせた作品なのだと思う。それを見ている側がどう受け取るかはもちろん個人の自由だ。恐らくオダギリジョーのファンの方は彼の内面を垣間見たような気持になれると思う。
そんなエンタテイメントとしての映画ではなく、芸術作品としての映画という立ち位置のほうが正しいのかもしれない。
あとは、受ける側がそれをどう思うか、それだけなのだろう。
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