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ある船頭の話のmuraのレビュー・感想・評価

ある船頭の話(2019年製作の映画)
4.5
オダギリジョー監督作品。なかなか高尚。哲学も感じる。劇中で船頭にこう言わせる。…誰かのために、何かのために生きようとする、そんな人間に俺もなりてぇ!…宮沢賢治だ。

いつの話か、どこの話かよくわからない。川岸に住み、船で人びとの往来を助ける船頭・トイチ。近くでは橋をかける工事が進む。橋が完成すればもちろん、トイチの船に乗る者はいなくなる。あるとき、川に浮かぶ少女を助ける。トイチのもとに出入りするゲンゾウとともに介抱し、やがて少女は快復する。少女はフウ(風)といい、トイチと暮らすようになる…

夢か幻か。それとも死後の世界か。虚実入り混じったような不思議な空間。それでも、描かれるテーマは現実的なもの。科学技術が進歩するなかで、それを持たない人間は社会にどう貢献できるのか。生きがいをどう見出せるのか。一方で自然とはどうつき合っていくべきか…

そして何といっても、この映像。絵のよう。不可思議な世界を描くのに非常に効果的。クリストファー・ドイルか。さらにロケ地は阿賀か。阿賀を選んだ時点でこの映画は成功のような。

猟師であるニヘイの父親が、死に際してこう言う。これまで獣に生かしてもらったから、死んだあとの体は獣に与えてくれと。そこでニヘイは父親の遺体を山中に置く。その直後、見られなくなっていたホタルがあらわれる…

ナウシカかと。でも、このあたりはいいな。

さらに、風が吹けば(フウがやって来れば)すべてが変わると。いやぁ、いろいろ思いが込められていて面白い。オダギリジョー、なかなかやるなと。

それにしてもクリストファー・ドイルといい、怪演の柄本明をはじめとする豪華キャストといい、初監督作品にこれだけの協力が得られるとは。オダギリジョーの人脈の賜物か。
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