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ある船頭の話のminorufukuのネタバレレビュー・内容・結末

ある船頭の話(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

町と村の間に横たわる川で船を漕ぐ老いた船頭が主人公。彼は毎日真面目に人を運ぶ仕事をこなしていたが、川に橋を架ける工事が着々と進んでおり、橋の完成は彼の仕事が無くなることを意味していた。ある日、主人公は怪我をして気を失っている少女を助け、介抱する。少女はある時点からの記憶を失っていた。二人は一緒に暮らし始めるのだか......という話。
オダギリジョーの長編初監督作品。主演は柄本明。

オダギリジョーの華やかなキャラクターからは想像できないほどの重々しくて地味で、そして深く考えさせられる作品。

純文学が原作の古き良き日本映画のようなフォーマットで人間の営みを切々と綴る見応えのある話だった。
橋が作られると職を失ってしまう船頭の焦燥感がひしひしと伝わってくる。しかも彼は他に生き方を知らないため抗うこともせず淡々と運命を受け入れている。便利になって暮らしが豊かになると同時に生きることも困難になる人間が出てくる非情さを上手く描いていた。橋を作っている男の「役に立たなくなったものはみんな消えて無くなる」というセリフが絶望的に思えた。村上虹郎演じる主人公を慕う村人が、橋が完成して社会が変わるとともに主人公を蔑むように振る舞うようになるところが恐ろしかった。
ラストシーンの小屋を焼く炎がパッケージのような赤黒い色なのがこの映画の本質を表していると感じた。
監督の人脈なのか、すごい豪華キャストだった。
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