ぎー

ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜のぎーのレビュー・感想・評価

4.0
「私が怖いのは視線です。人種分離法よりも。」
アメリカ南部を舞台に、公民権運動が広がりを見せる中、白人女性の視点で黒人メイド達の実態を描く事で、当時まだ色濃く残っていた人種差別の現実をテーマにした映画。
黒人メイドに対する一部の人々の態度に疑問を覚えて行動に移すエマ・ストーン演じる善良な主人公スキーター、彼女と価値観が真逆で黒人を人とも扱わない悪役ヒリー、とキャラクターの位置づけが分かりやすい!
のに、全然安っぽくない。
そして皆から仲間外れにされているシーリアを中心としたほのぼのパート、結婚しろとうるさかったのに最後は娘の夢を後押しする母を中心とした感動パートも安定して用意されていて、人種差別というなかなか重たいテーマなのに、わりとポップにストーリーが進んでいくので映画に入り込む事ができる。
描かれている差別の内容も殺害とかリンチとかそういった類いのものではなく、食器を分けられるとか、給料が安いとか、トイレを別にされるとか、そういった類いのもので、リアリティが凄い。
人種差別でも黒人女性にフォーカスを当てたという点では非常に画期的な映画だったと思う。
でも、何より痛感したのは冒頭のセリフの通り、基本的にはほとんどの人が善良な市民なのに、周囲の視線を気にするあまり、心に従った行動が出来ないということ。
コロナウイルスに分断された現代の日本にもそのまま当てはまると思う。
日本の人々も善良な市民がほとんどなのに、ネットやSNSのコメント欄は、他人の行動を批判したり、何かを罵倒したり、ネガティブな事を言ったりする発言で溢れかえっていて、多くの人が口を閉ざしている。
1番印象に残っているシーンは、スキーターを育ててくれたメイド、コンスタンティンをクビにした事実を母が告白する場面。
この場面に、まさにその事が表れていた。
母は間違いなく善良な人。
なのにあのパーティーでは周囲の視線を気にして、泣く泣くコンスタンティンをクビにせざるを得なかった。
その事を母は深く後悔していた。
だから、悪役ヒリーがスターキーを脅迫しに自宅に来たときは、周囲の視線を気にして二度と大事なものを失うまいと、娘を守りヒリーを追い払った。
この映画には様々な勇気ある行動が描かれていたけど、この母の行動も愛情と勇気に溢れた素晴らしい行動だった。

その母の姿を見た後に、スキーターの親友エリザベスはヒリーの脅しで、本の物語を語った1人であるエイビリーンをクビにする。
泣きながら。
結局世の中はほとんどスキーターの母やエリザベスのような人間で成り立っている。
その中の極少数のスキーターのような善良な心と勇気を併せ持った傑出した人物が影響を与えて、エイビリーンやミニー、そして母のように行動に移せる人が増えていくと世界は良くなっていくのだろう。
そういう意味で間違いなく自分は平凡な人間。
だからこそ深く行動したし、心の底から彼女達のことを尊敬させられた。

エマ・ストーンは本当にスター。
女優って凄いなって思ったのは、皆からハブられているシーリアをジェシカ・チャステインが演じていたことに気づいた時。
『インター・ステラー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』と全然違う。

何の違和感もなくこの映画では男性は完全に脇役で、女性ばかり登場し、女性が活躍する。
女性の世界における人種差別を描いた傑作だった。

◆備忘ストーリー
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ヘルプ_〜心がつなぐストーリー〜
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