乳酸菌

アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場の乳酸菌のレビュー・感想・評価

3.6
フィンランドは大国と大国の間に挟まれた小国、しかし第二次世界大戦で敗戦国で唯一戦勝国からの国土占領を免れたと言う点では、かの大戦では希有な国家ですかね。

小国の悲壮感で言えば、ドイツとソ連に分割占領されたポーランドがもっと悲惨ですが、地政学的にフィランドは戦略上重要拠点では無かったのが救いだったかも知れません。

とは言いつつ、執拗に攻めてくるソ連軍はフィンランドという小国にとっては鬱陶しさ極まりない存在だったでしょう。

そこで繰り広げられる戦闘は針葉樹林帯でのゲリラ戦に近く、時々敵の砲撃を伏せてやり過ごす、そんな日常が繰り返される、塹壕の中で忍耐を必要とする、そんなシーンが多かったです。その辺のリアリティの再現度は高いです。塹壕と言う閉塞空間の中での息詰まる日常とか。

冬戦争、継続戦争と二度のソ連との戦争。実際、日本人としてはソ連、ロシアと戦後かなり相当酷い目に遭わされた人達の事を考えると、良い印象は持つのは難しく、そこには憎悪感しか無い訳ですが、対ソ連のことを考えると、フィンランドに対し、ふとシンパシーを感じるかもです。

もう、世間一般ではソ連軍=悪が定着して(この前鑑賞した「僕たちは希望という名の列車に乗った」もそうでしたし)バイアス抜きで事実そうだったことを考えると、戦争後期の撤退戦のむごさは胸に刺さる痛さを覚えます。

余談ですが、「戦場のヴァルキュリア」って名前のゲーム、架空のヨーロッパが舞台ですが、プレイヤーの操作する国家は地理的に思いっ切りフィンランドの有る設定、国家の名前もカレリアならぬ「ガリア公国」。ゲーム中に撤退戦とかも有るので、PS4を所有している人は2,000円以下で購入できるお安さ、ゲーム自体の評価も高くお勧めです。ここで扱われる架空国家のソ連=帝国も一方的に侵攻してきて残忍って設定が如何にもというか。っと脱線失礼。

総合してこの映画は、シンレッドラインの様な映像で魅せる「草原の美しさ」ラストの「戦争の理不尽さ」のアピールは強くないです、と言いつつ、後半「いかにも」って体型の上官の登場で無茶な作戦を部隊にに吹っ掛けますが、実際の戦争の忍耐を要する地道さを非常にリアリステックに描いている佳作と感じました。

副題の「英雄なき戦場」も言い得て妙を得ている感。一兵卒にフォーカスを当てている訳では無く、群像として、様々な現在過去を持った兵士の戦場での立ち位置を静かに描いています。それらは地味ですが、それ故にこの映画にリアリティを与えている要素の一つかなと。

ほぼ平原など無い、針葉樹林の生い茂る勾配の激しいロケーションでの戦闘はその厳しさ一層掘り下げ、緒戦の快進撃と裏腹に終戦間近の絶望的な撤退戦など、このフィンランドという国家の辿った厳しい困難を知る上で過去現在未来と例え北欧の小国の出来事と言えない、我々としても知っておくべき事実、それは現在進行系で進む北方領土問題を抱える日本人としても。
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