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窮鼠はチーズの夢を見るのkassyのレビュー・感想・評価

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)
4.0
最速試写会にて。
行定勲監督登壇。

BL原作だが、人間と人間がぶつかり、惹かれあう様子が丁寧にじっくりと描かれるラブストーリーだと捉えて見ていただきたい作品。昨今、本当の恋愛映画が減っているなと思うが、本作は恋をする苦しみをしっかりと描いた作品だ。

大学時代から恭一のことが好きだったゲイの今ヶ瀬は、ひょんなことから再会して弱みを握る事になり恭一と度々会うことになる。

今ヶ瀬を演じる成田凌は、130分間ずっと恭一を見る目が恋をしている。愛おしそうに恭一を見つめる目が、台詞よりもなによりも雄弁に焦がれる苦しさも、愛しさをも語る。その破壊力がジワジワとノンケの恭一を沼へと引き摺り込む。

恭一は自分はゲイではない事を確認したり、抵抗をしたりしながらも、今ヶ瀬をこっぴどく切り捨てる事が出来ない。その感情のもどかしさが、映画を見ていて痛いほどわかる。

今ヶ瀬がめちゃくちゃ可愛くて、愛しい存在なのだという事をいろんな女性が出現し絡みながらも、結局その本当の気持ちへとたどり着いていく。

とにかく恭一はズルくて優柔不断で受け身でユルい男なのだが、そんな恭一が能動的になった瞬間にハッとさせられる。

肌の絡みはかなり多い作品で、男女問わずベッドシーンあり。大倉くんそこまでやるのか?!と見ているこちらがドキドキしてしまうほど喘いでくれるし、色んな事をしてくれている…
大倉くんはそこまで映画に出ていないが、間違いなくこれまでで一番良い演技だと思った。恭一というかなりフシダラな男なのに許せてしまう特殊な魅力を演じている。

成田凌は『愛がなんだ』では、愛されても意に介さず振り回す側だったが、本作ではひたすら一途に愛する役である。真逆の役なのに本当にぴったりで、成田凌がとにかく凄い。成田凌の前では女の可愛さなんて死滅する、くらいの勢いで超えてくる可愛さをこれでもかと行定監督は引き出している。
愛の執着をここまで演じますか、末恐ろしいです成田凌。


先に公開された行定監督の『劇場』と『窮鼠』はかなり性質が似ている。
監督もトークイベントで言っていたが、2つとも部屋という狭い空間を舞台にした、主役の2人の濃密な時間を描いた作品なのだ。だからこそ群像劇にはない魅力があり、2人についてじっくりと考えさせられる良さがある。

ただ、それまで丁寧に描いていたはずが、終盤だけやや駆け足感を感じてしまったのでそこだけ少し残念。また、終わり方も好き嫌いが若干分かれそうではあるが、監督としては簡単にハッピーにするなんて嘘くさい。ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』みたいなのが好きとの事であった。

しかしそんな短所もありつつも補えるほどの魅力が本作にはあると思う。ぜひ多くの方の目に触れてほしい作品だ。

映画自体気に入ったのだが、
男と女、どっちを取るの?とハッキリと迫る夏生とのシーンは特にお気に入りである。数いる女性の中で、夏生だけが今ヶ瀬との関係に切り込んだ意見を持ち、意思を見せるのである。その後も顛末も含めて、夏生の働きが秀逸であった。
2人でのお気に入りシーンはワインボトルのシーン。今ヶ瀬の深い喜び方にジーンとしてしまった。
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