大島育宙

窮鼠はチーズの夢を見るの大島育宙のレビュー・感想・評価

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)
4.0
スリリングな恋愛活劇として無類に面白かったのだけど「これを面白がってていいのか…?」という気持ちになり続けた。原作を読んでから最終判断しようと思った。現状、今ヶ瀬(成田凌)のセクシャリティそのものは主題ではなく「全員異性愛者だったとしてもほとんど同じ話が成り立つけど、たまたま今ヶ瀬がゲイの人だっただけ」という、セクシャルマイノリティを特別視しない描き方だと理解している。だから爽やかに感じた。いわゆる(一部の人が敬遠する)「LGBT映画」ではないが、ゲイが主役の恋愛映画がいま創られてヒットすることが素敵だと思う。

とは言え、ディテールの裏話を聞けばどこまでも面白い一方で、行定勲監督の弁を聞けば聞くほどがっかりする部分があるのも事実。感覚で映画を撮り、後から言語化して饒舌になる人なので、ことセンシティブなトピックを扱う際は「ああ…繊細な映画なのに監督本人は意外と当事者の問題についてはあっけらかんと見てるのね…」となる。もちろんゲイコミュニティに膨大なヒアリングを行ってリアリティを追求した話も面白いし、描き方が無配慮というわけではないのだけど。

「モテる人」というのは往々にして「つまらない人」であり、長く緩い登り坂的なモテ期を経験する時、人は皆「モテはするけどつまらない人間になっていく自分」を恥じる。

季節が移り変わるはずなのに、外に出れば首を竦めざるを得ない「真冬」が一瞬も出てこないのが不思議で爽やかだと思った。ずーっと晩秋か初春なんだよ。みんなが恋してるから。