カツマ

ウーマン・イン・ザ・ウィンドウのカツマのレビュー・感想・評価

3.8
その幻惑は謎の入り口。窓枠に収まる日々に、凄惨な恐怖が霞む。その目で見たのは虚構か、現実か。自分の記憶すら信じられない状況で、一体誰を信じることができるのか?霧散する真実、悪魔的な仮面の所在。そう、例え、邪悪なことが起こっていても、彼女のいる裏窓からでは届かない。彼女はそこから、出ていくことすら出来ないのだから。

今作はNetflixがお送りする、コロナ禍のリモート時代に適応したかのような古典的な屋内サスペンスである。ヒッチコックの『裏窓』を大胆にオマージュ、ストーリー的にも似通った作品となっており、懐かしのスリラーの雰囲気を蘇らせた作風となっている。監督には『つぐない』『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』など、数多くの名作を世に送り出してきた映画作家、ジョー・ライト。超豪華なキャスト陣を箱庭的な舞台に押し込めて、ヒッチコックのモンタージュを焼きつけた作品だった。

〜あらすじ〜

児童心理学者のアナ・フォックスは、広場恐怖症のため引きこもりの生活を続けており、夫や子供とも離れ離れの日々を送っていた。彼女は精神的にも不安定で、精神安定剤が不可欠な状態。お酒に浸る生活にも拍車がかかっていた。
そんな中、隣りのマンションにとある一家が引っ越してくる。日頃から近隣住民の生活を窓から覗き見ることの多かったアナは、今度は越してきた隣人一家を観察して、家内での時間帯を過ごしていた。その直後、アナのもとに隣りのマンションの一家の息子、イーサンが訪ねてくる。イーサンは挙動不審で何事か怯えている様子だったが、アナは何もできずに途方に暮れた。その後、イーサンと入れ替わりでやってきたのは彼の母親と思しき女性で、ジェーンという名前のようだった。彼女はアナともウマが合い、酒を飲み交わし、幼少期のイーサンの写真を見せたりと、二人は気安い時間を過ごした。だが、その夜、隣りの家の様子がおかしいことにアナは気づく。そして、窓越しに凶行が行われる現場を見てしまい・・。

〜見どころと感想〜

オープニングからヒッチコックの『裏窓』のシーンを登場させる、という大胆な元ネタ明かしから始まる本作。部屋から出られない主人公が窓から隣人を覗く、という設定はそのまま『裏窓』で、物語の展開自体も踏襲されている。音楽や演出もヒッチコック作品に似せてきていて、数々の映画音楽を手がけてきた、ダニー・エルフマンの緊迫感溢れるお仕事も巧みな効果をあげている。それらの舞台装置によって、今作は古典的なスリラー、という形状にすっぽりと収まっており、全く新しくはないが、ヒッチコックの雰囲気は上手く再現されている。

この映画最大の魅力は、何と言っても超豪華なキャスト陣にある。主演のエイミー・アダムスはオスカーに何度もノミネートしている実力派であるし、脇役にゲイリー・オールドマン、ジュリアン・ムーア、アンソニー・マッキー、などなど豪華絢爛たる布陣を敷いてきている。ただ、それぞれのビッグネームの出演時間は短くて、特にアンソニー・マッキーはワンポイントの特別出演枠。基本的にはエイミー・アダムスの一人演技が中心で、密を作らないリモート時代の映画、というイメージも残してくれる(実際の撮影は2018年に行われている)。

更にこの映画の大きなトピックといえば、フォックス2000ピクチャーズが制作を担当した最後の映画になったということ。冒頭のフォックスのロゴが高らかと鳴らすオープニングがノスタルジックを呼び覚まし、古典的なスリラーの面影をも蘇らせるかのようだった。

事件は起きたのか?それとも主人公の妄想なのか?その境界はどこにあって、真実の姿をボヤけさせてしまうのか。オーソドックスだからこその面白さ。それと同時に王道を彷彿とさせる良い意味での退屈さ。その狭間で、真実が光と影を行ったり来たりしているかのような作品だった。

〜あとがき〜

ジョー・ライトが送る、名俳優大量投入に加え、もろにヒッチコックオマージュを炸裂させる、という地味ながらもやりたい放題な作品だった。
サスペンススリラーとしては定番を押さえており、『裏窓』好きとしては非常に楽しく見れる展開。エイミー・アダムスもさすがの熱演で、(今作ではなくても)そろそろ彼女にオスカー像を掲げさせてあげたいと思ってしまう。

色々あってNetflixからの配信となったけれど、日の目を見ることができて良かった作品でしたね。こんなところにも配信映画の需要がチラリと。古典的なスリラーのテイストは好きなので、監督の『いつかはやってみたい』を本当にやってしまった感は支持していきたいと思っています。
カツマ

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