朝田

フォードvsフェラーリの朝田のレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
4.7
自動車レースの中でぶつかり合う男たちのプライドと意地を描く。全編に渡りシリアスになりすぎないユーモアを交えたセリフのやり取りと無駄の無いカット割りが素晴らしい。そうした軽妙なタッチが続くからこそ、レースシーンの緊張感が引き立つ。テンポ良くショットを繋いでいく中でも、時折長回しが入る事で緩急が生まれている。特に、フォード社の人間がマット・デイモンの元をたずねるシーンにおける、レースの記憶について語るデイモンを捉えた長回しは、レースというものが苦い記憶としてデイモンの頭の中にある事を強く訴える。24時間開催されるレースを題材にしているため、ともすればドラマが単調になってしまいそうではあるが、ドライバー視点の主観ショット、そしてエンジニアたちの客観的なショットがバランス良く入り交じるため、飽きの来ない作りになっている。さらに、ドライバーの家族や、フォード、フェラーリ社の人間たちのドラマを入れる事で多層的にドラマが展開されていくのも見事。音響も素晴らしい。レースに居合わせているような臨場感がある。大抵レースシーンは大袈裟に緊張感を煽るが、今作はスコアを多用せず、マシンの走行音のみを鳴らす。だからこそドキュメンタリーを見ているかのような生々しさが生まれている。セリフに頼らない演出も光る。ラスト間際のクリスチャンベイルのある大きな判断を描くシーンは、一切セリフを持ち要らず表情だけでベイルの中の心情の変化を語っており、あざとくない感動が与えられる。古典的なアメリカ映画の風格を漂わせるマンゴールドの真骨頂。文句無しの傑作。
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