小松屋たから

フォードvsフェラーリの小松屋たからのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
4.2
フォードVSフェラーリというよりは、ビジネス対人間性(よく見ると原題はVSじゃなくてVなんですね)。そもそもフォードは巨大資本の大企業であることに対し、フェラーリはレーシングカーに特化した中小企業だし、「アメリカの大衆パワーVSヨーロッパの上流階級」という構図で最後はアメリカ万歳!みたいな映画だと気持ちが乗らないだろうなと思っていたが、全然そうでは無かった。人間賛歌を中心に据えたことで、むしろフォード社内はネガティヴに描かれ過ぎているのではと感じるほど。

苦さはあるが基本的には王道の「スポ根」。でも、レースシーンの迫力とマット・デイモン、クリスチャン・ベイルの演技はさすがに素晴らしく、おそらくは膨大な努力を要した当時のレースやコースの再現度の高さも圧巻で、ベタな展開も長尺も気にならず、アイアコッカやマクラーレンなど、興味深い実在人物の描き方も含め、最後まで楽しく観られた。

地上波からF1の放送が消えてから久しく自動車レース視聴をしていなかったのだが、ちょうど、去年からサッカー目当てにDAZNに加入したらレギュラー放送をしていたので、また観始めた。最初は今のチームの力関係やルールなどをまったく知らなかったので、より機械感が増した車体に戸惑ったが、ドライバーの個性や経歴がわかってくると凄く面白い。やっぱりクルマの性能より人間が話題の中心になってこそのモータースポーツ。それはF1でもGTカーレースでもルマンでも同じだろう。

なぜ、命の危険が分かっていながらわざわざこんなことをやるのか、それは、映画も同じことで、なぜ、少なくない金額と膨大な手間暇をかけて世界中で作られるのか、きっと、正確な答えはないのだろうけれど、他人からは馬鹿じゃないかと思えることを一生懸命やることこそが人間らしさとかアート、そして産業を生み出す。

そして、大半の人の功績は時とともに忘れられていくけれど、こうして、何十年後かに誰かが思い出してくれて蘇ることがある。

マット・デイモン演じるシェルビーが単なる善玉ではなく、小狡さも持ち合わせていて、だから、人間って面白いのかも、そんなことを思わせてくれる良い映画体験でした。