この映画を観て「いつかはマスタング！」と思った人は何人いただろうか？ レースに向かう姿勢がフォードとフェラーリでは違うし、そもそも会社が目指しているものが違う。フェラーリは、富裕層をターゲットとした高級車を製造販売しているのだから、レースに勝つことは必須目標だ。一方、フォードは一早く社会貢献を社訓とした企業である。製造コストを抑えて、皆が買える大衆車の普及を標榜した。だから、ヘンリー・フォード二世がル・マンに挑戦する理由はエンツォ・フェラーリへの復讐という、何とも子供じみたものしかない。
この幼稚さが面白い。大の大人が油まみれになって、朝から晩までマシンに向き合う。考えているのはレースに勝つことだけ。真面目に会社の利益なんか考えてはイケマセン。いっそのこと、倒産させましょ。従業員１万人が露頭に迷ってもいいじゃないか。そんな男たちは、いつの時代でも面白い。愛してやまない男たちがそこにいる。残念ながら、それは遠い昔の話かもしれない。でも、この世界を羨ましく思うだけでもいいじゃないか。IoTもAIもない世界は不便かもしれないけど、何だか楽しそうだ。ストップウォッチを、ちょっと拝借したくなった。イタリア製のをね。
