TaichiShiraishi

ゴーストランドの惨劇のTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

ゴーストランドの惨劇(2018年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

見る前にはどんだけ恐ろしくて嫌な気分になるんだろうかとガクブルで席に着いたが、予想外の感動をもらって帰れた。

たしかにこれはスゴイ。
意外とパスカル・ロジェ監督はヒューマニストなのね。

もちろん怖いところはめっちゃ怖いし、ホラーオマージュもふんだん。

基本引っ越してくるとろくなことないよね。しかも田舎、周りに家無し、人形だらけ、などなど笑ってしまうくらいのホラーの定番が詰まっていた。あのアイスクリーム屋のトラックのまがまがしさも絶品。

悪魔のいけにえが一番影響色濃いけど、人形の描き方では「サスペリアPART2」、引っ越してきたことにより起きる惨劇という意味では『シャイニング』『アザーズ』『ドリームハウス』、闖入者に襲われる展開は『ファニーゲーム』や『サプライズ』なんかも連想する。

主人公ベスがラブクラフトを敬愛しているのもホラーマニアのロジェ本人の投影だろう。ただこの話とラブクラフトがあんまり関係ないのがちょっと残念だけど。

ロジェはトビー・フーパ―を敬愛しているらしい。

そして悪役二人の造形も中々のキモ怖ぶりでたまらない。あの巨漢のあいつとかどっから見つけてきたんだ。あの動きの俊敏さが恐い。女一人逆さまに持ち上げて匂いまで嗅ぐ仕草だって相当な筋力ないとできないし。まさに魔女とバケモノ。

しかしえぐさ自体は巧くオブラートに包んでいた。ドアとか家の装置の使い方がうまくて、絶妙に決定的な部分は隠しつつ、こちらに想像させる演出になっていたのも好み。

あの殴るシーンのリアルさもすさまじい。女優さんめちゃくちゃ体張ったな。
メイクもいい仕事してた。

カメラワークの速さもベスの目線だと思えば納得。そもそもあんな狭い家の中でこんな所狭しと動き回るのかなり大変だっただろうな。


そして一番重要な登場人物であるあの家の造形が素晴らしい。立地も含め良くあんな場所探してきたな。禍々しすぎるぜ!古び方も完璧!

二階建ての家のはずなのに三階に見えるように撮られているカットもあったらしい。
このロケーションだけでももう勝ったも同然だったんだろうな。

ここが舞台だったら別に捻りなしの普通のホラーでもかなりの作品ができたと思うが、このツイストのアイデアも秀逸。ただびっくりするだけじゃなく、人がなぜ空想をするのか、なぜ空想だけしていてはいけないのか、というテーマにも直結している。

あの双子の姉妹の性格の正反対さはまるで右脳と左脳。人間に必要な想像力と現実主義の両方の象徴のようだった。どちらもなければ人は過酷な現実を生きていけない。

ベスの逃避は必要なことではあった。それがないと希望が持てないし現実に押しつぶされてしまう。母親が「置いてったんじゃない、巣立ったのよ」とか「あなたが羨ましい」っていう場面も、ベスの脳内の事だと思うと切ない。



母親の死に耐えられない彼女の自己防衛のためだったんだろう。でも、あくまで逃避は逃避。

そこで現実主義者で俗物っぽく描かれていたヴェラがベスを引き戻して救う展開は胸アツ。
ヴェラみたいなキャラって大抵ホラーですぐ死ぬからこそあの子が重要なキーを握っているのがとても意義深い。


ベスが引っ越し初日に初潮を迎えるのも示唆的。彼女が大人になった瞬間、親の庇護がその日のうちに終わり、彼女のまえに人間だれしもがある程度は経験する過酷な現実を凝縮したような悪夢のモンスターたちがやってくる。彼らが少女を人形のようにするのも、大人になろうとしている存在を物言わぬ人形にとどめておこうとする歪んだ欲望みたいな意味なのかな。

あの動き回るカメラワークもまだ生き方の定まっていないベスの視点を象徴するかのよう。

そこで現実を諦めてかなうはずだった夢に逃げるのも物凄く気持ちは分かる。でも本当に叶えたかったら立ち向かうしかない。

だからこそ2度目にベスが空想に逃げ込んだ時に、母とラブクラフトに出会う場面はとても感動的だった。

ラブクラフトは過去の存在だが彼女にとっては目指すべき未来。イマジナリーフレンドとはいえ、そんな彼が「この作品は完璧だ。書き直すところはない」といって後押ししてくれるセリフに涙が出た。もう二度と戻ってこない母が「あっちはつらいことだらけよ」と言いながらも優しく見送ってくれるシーンも。

『パンズラビリンス』みたいに現実がクソだったら空想に逃げてもいいって言ってくれる映画も大事だが、空想が現実に戻る勇気をくれるこの展開はすごい。

ただ現実に戻って戦うことを決めた時点でもう決着はついている分、最後の攻防は正直あんまり盛り上がらなかったけど。舞台が朝になっているのも希望に向かっていることの象徴としては分かるけど怖さは削いでしまう。

ただ今までベスを怖がらせ苦しめていたあの機械仕掛け人形が最後の最後にピンチの彼女を救う展開には舌を巻いた。巧い伏線回収。

ラストのセリフも感動的でした。


あと下世話な話だけどベスの10代役の子がめちゃめちゃ可愛くて、大人になってしまった瞬間だいぶ微妙な感じになっていたから、また子供に戻ってくれた時が普通にうれしかった(笑)。恐怖におびえる顔が絶品。

あんな子がラブクラフト好きとか最高かよ。女優さんもこんな映画に出てくれるってことはある程度わかってる方なんだろうな。

不満点

悪役が拳銃を普通に使うのはちょっと興ざめかな。なんかもっとエグイ殺害が見たかった。あのトラックミスリードは巧いけどさ。

あとホラー演出としてジャンプスケアばかりやっているのはだんだん飽きてきた。BGMもステレオタイプだし。敵も途中から圧倒的絶望感がなくなっていたのが残念。


あと、あれがアメリカのどこなのか、なぜフランスからあそこに引っ越してきたかの説明は欲しかった。人形だってどういう理由であそこにあんな大量にあったのかわからないし。

それからあの犬は何の象徴だったのかとか、冒頭で走り回っていた男の子は何だったのかとか気になる部分も多い。

モヤモヤするからもう一回見ようかな。
2度と見たくないとかいうほどエグくもないし。

何にせよ今年を代表するホラーなのは間違いない。公開館少なすぎますよ。
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