MasaichiYaguchi

ビル・エヴァンス タイム・リメンバードのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.9
ジャズファンでなくても、このドキュメンタリー映画で紹介されたジャズミュージシャンや楽曲を見聞きした人は結構いると思う。
生誕90周年を記念して公開された、ジャズ史の巨人の1人にして、後のジャズメンに多大な影響を与えたビル・エヴァンス。
この稀代のジャズ・ピアニストの生涯は、彼が生み出した心の深いところまで届く繊細で美しい楽曲とは裏腹に、身内やバンドメンバーの不慮の死や破滅的な薬物中毒という悲劇に彩られ、その光と影が強いコントラストを成す。
見舞われた悲劇の中には偶発的に発生した不幸もあるが、大半は彼の身勝手、自己中心的なもの、または彼の弱さによって引き起こされたように思う。
この身勝手さや弱さは、天才ミュージシャンとして、美しいものを生み出す者として、周囲に押し潰されそうな重圧からきているのかもしれない。
エヴァンスは度々訪れる不幸や悲劇を〝バネ〟にするかのように、それに纏わる優れた楽曲を作っていく。
その作曲やバンドメンバー達との舞台裏が、身内や彼が組んだトリオのメンバー達による証言で浮き彫りにされる。
その証言や彼の「美と真実だけを追求し、他は忘れろ」という言葉によって、「ワルツ・フォー・デビイ」「枯葉」「マイ・フーリッシュ・ハート」「ベリー・アーリー」「ブルー・イン・グリーン」等のマスターピースが益々深みを増して胸に響いてくる。
悲劇に満ちた人生を歩みながらも、鍵盤に覆い被さるようにして一音一音に魂を込めて弾き、そして美しい楽曲を生み出したビル・エヴァンスの姿を観ていると、改めて彼が残したアルバムを聴き返したくなります。