懐古厨へのスパルタ的教育〜大人になれない君たちへ〜
今作は「ドラゴンクエスト」をフルCGアニメで再現した作品であり「your story」という副題が付けられている。
わざわざ、これまでの関連作品とは無関係のサブタイトルを冠するのであれば、本来ならドラクエの世界観は継承しつつキャラクターやストーリーは完全新作で展開して然るべきなのだが、今作はシリーズでも屈指の人気を誇る5作目「天空の花嫁」をモチーフに制作されている。
ともすれば、メインターゲットは必然的に当時「ドラクエV」に熱中した中年層世代となり、懐かしさと共に最新技術を駆使した映像美を堪能して貰えるよう最大限の歩み寄りを見せるのが"スジ"である。
しかし、今作を手掛けた「山崎貴」監督はまさかの原作未プレイであるらしく、案の定ファンが期待する"観たかったシーン"をカット、もしくは駆け足で表現しまくり、あまつさえ「鳥山明」先生デザインのキャラクターを自己流にアレンジまでするという、ことごとくファンのツボをハズしまくった挙句、原作に対する思い入れの度合いに著しく''乖離"が見られる分、コレジャナイ感は常軌を逸するものとなっていた。
まあ、それでも映像としての面白さや迫力に関しては、やはり腐ってもフルCGアニメであるからちゃんと観れはする出来ではあり、仮に山崎監督と同じく原作に思い入れがない観客が鑑賞すれば、順当に楽しめるクオリティは担保されていたとは思う。
なので、今作が反感を買うに至る所以は実はここではない。
では、一体なにをやらかしたのか。
山崎監督は、なにを血迷ったのか今作を通して観客に対して正々堂々と"喧嘩を売った"のだ。
しかも、それはそういう"比喩"ではなく、正に"言葉通り"の所業で、である。
この世界は作り物で現実じゃないんだよ、という展開はままあるオチなのだが、今作がやらかした事は"夢オチエンド"とも微妙に違う。
この映画は「ゲームなんかに入れ込むのはやめていい加減大人になれ」というアンチテーゼに対して「たとえゲームの中の仮想現実だったとしても、あの日の僕は確かに冒険していた」という"普遍的な感動体験"をテーマにぶつけてクライマックスの演出を試みた訳だが、今作はそもそも論としてドラクエVのVRリメイクを"現在進行形"でプレイしているという設定の最中に、過去に浸ってんじゃねえと謎のウイルスから突然説教を食らうという展開をしてしまう事により、上記で挙げたテーマから逸れてしまった。
本来この対比を成立させる為には、少なからず過去にすがるように古い作品に取り憑かれた懐古厨の姿を取り入れる必要があると考えるが、今作で登場するドラクエVはあくまで"新作ゲーム"なのである。
それでは、この映画のテーマとする「あの日」が「今」とすり替わってしまう為、突然喧嘩を売られるが如く現実を突きつけられた絶望と、それをも凌駕する思い出補正との対比がきちんと成立しなくなってしまっている。
またこれもそもそも論だが、いまやゲームは子供の遊ぶものという考え方自体が古臭く、感覚として受け入れにくいところがある。
何故なら、DLC(ダウンロードコンテンツ)の普及により"課金"という概念が同居する今、一昔前のような売り切りの作品自体が少なくなっており、それに伴い十分に楽しむ為必要となったのは、整った"ネット環境"と追加で作品を購入し続けられる"財力"である。
それを備えているのは言わずもがな大人であり、超現実的な話として今のゲーム市場のメインターゲットは、それらを親の手から提供される"だけ"の立場でしかない子供では既になくなっているのだ。
そして、今作におけるドラクエVを最新ゲームに置き換えてしまった事により、その印象は倍増する事になる。
そのうえでこの映画は、ゲームに思い入れをもってワクワクしながら楽しみに来た観客を「大人になれ」のたった一言で、急に掌を返して全否定した。
当時、無我夢中で遊んだゲームを懐かしみ、思い出補正もありつつ劇場に足を運び、しっかりお金を払ったお客様に対してこの仕打ちである。
山崎監督に実際そのような意図がなかったとしても、想定されたターゲット層と今のゲーム情勢を鑑みるに、あの展開をするという事はそういう事にしかならないではないか。
そして、今作がやった事はネットスラングで言うところの「釣り」そのものである。
特定の人間が期待し飛び付きそうな題材をチラつかせ、まんまと食いついてきたところを一気に貶め楽しむ悪質行為だ。
だが、釣りスレにも中には面白いものがある。
やけにクオリティの高い嘘にまみれていた為、ラストにネタバレしてひっくり返っても、そこまでは完璧に騙されたしまあまあ楽しめたからいいやと、怒りが覆るパターンだ。
今作もそういうものだと思って見ると、まんまと引っ掛かりイラついて(釣られて)しまった自分の滑稽さに、なんだか変に笑えてくる。
だから、今作で感じる憤りとはすなわち、逆に楽しむべきエンターテインメントの一部だと思って臨むのが最も相応しいのではないだろうか。
そういう広い心持ちで、バカにしてきた相手(山崎監督)をバカにし返すスタンスこそが、この映画の攻略法だと感じた。
それにしても「佐藤健」の声優スキルはハンパない。