ノラネコの呑んで観るシネマ

グレース・オブ・ゴッド 告発の時のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

4.3
フランス、リヨンのカソリックの神父が、数十年間にわたり、子供たちに性的虐待をしていたと告発された事件の顛末を描く。
びっくりするのは、このストレートな告発劇を撮ったのが、フランソワ・オゾンだと言うこと。
まあ作劇にクセは残ってるけど。
きっかけは30年前に虐待を受けていた男が、その時の神父がいまだに子供たちを教えている事実に気付いたこと。
彼は神父の危険性を枢機卿に訴えるが、のらりくらりとかわされ何もしない。
業を煮やした男が、神父を検察に告発したことからようやく事態が動き出す。
最初の男から始まって、教会と信仰へのスタンスの違う三人の被害者が順番に主人公のポジションに入り、物語を主導するかなり特異な作り。
視点が固定されないので、観客が過度に入り込むことがなく、ドラマ的な抑揚はあえて追求せずに、まるでドキュメンタリーを観ている様な感覚だ。
告発された神父は自分でも小児性愛者なのは認めてるのだが、教会がそれを知りながら何十年も放置してたり、親によっては全然子供に寄り添ってないケースがあったりするのが真のダークサイド。
宗教という権威を隠みのにした犯罪は、ここが怖い。
そして結束の固い閉じられた集団では、自浄作用が働くことは滅多に無いんだな。
これ同じ問題が世界中で明るみに出たのも、もうカソリック組織の構造的問題だろう。
受けた傷を話せるようになるまでにかかる長い時間は、時効という方で加害者に味方するのもやるせない。
信仰と正義の間にあるジレンマが描き出される。