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赤い闇 スターリンの冷たい大地でのkuuのレビュー・感想・評価

3.8
『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
原題 Mr. Jones.
映倫区分 PG12.
製作年 2019年。上映時間 118分。

ポーランドのアグニェシュカ・ホランド監督が、スターリン体制のソ連という大国にひとり立ち向かったジャーナリストの実話をもとにした歴史ドラマ。
ポーランド・イギリス・ウクライナ合作。

今作品は、69回ベルリン国際映画祭でプレミア上映されたアニエシュカ・ホランド監督の作品。
ソビエト連邦ウクライナの飢饉をいち早く世界に伝えた若きジャーナリスト、ガレス・ジョーンズの物語でした。
余談ながら、2019年のベルリン国際映画祭で上映されたバージョンは141分だったそうですが、その後、2020年に一般公開された今作品バージョンは118分しかない。
正確にどのシーンが削除されたのか(そしてその理由は)スタジオや監督から明かされていないませんが、削除されたシーンを是非とも見てみたいかなぁ。
扨、今作品の監督は、ウクライナSSR(ソビエト社会主義共和国)を含むソビエト連邦を、自ら目撃し、ウクライナの大きな悲劇を目撃した外国人の目を通して見せています。
ギャレス・ジョーンズの物語には、疑似ドキュメンタリー的な特徴やロマンティシズムはなかった。
ロイド・ジョージの元顧問で、有名な政治家である青年は、ジョセフ・スターリンにインタビューしたいと云う。
ソ連がすべてのプロジェクトを実行するために使っているお金がどこから来ているのかを理解したいのだろう。
ヒトラーに話を聞き、イギリスの元首相から推薦を受けたのやから、きっと目的を達成できるだろうと紳士は自信満々。
モスクワに到着したジャーナリストの関心は、国家の指導者から黄金、すなわち肥沃なウクライナの黒土へと移っていく。
ガレス・ジョーンズは、彼の平凡な人生が二度と同じにならないような旅に出る。
ジョーンズは野心家で、残酷なほど正直者。
自分の意見を述べることに躊躇はなく、たとえ評価を下げたり、キャリアを失うようなことがあっても、それを公表する。
経験豊富な政治家にバカにされても、不公正な制度に虐げられても、自分の信念を貫く。
かなりブレない人やなぁ。
ジョーンズのイメージは、理想主義と若干の甘さが同居している。他の外国人なら、簡単に逃げられる監視員一人を同行させるほど、ソ連の役人の信頼を得ることができるやろうか。
ジョーンズは、監視員から逃れた直後に飢饉に直面する。
その出会いは、ジャーナリストがなんとか飛び込んだ暗い馬車を背景にしている。
そこは疲れ果てた人々で溢れ、与えられた場所に活気を与えるのは、バッグから取り出した明るい色のオレンジ。
最初はパンと暖かいコートを簡単に交換したことに驚く。
しかし、先に進めば進むほど、彼の周りでは悪いことが起こっていく。。。
今作品には、目をそむけたくなるようなシーンがいくつかありました。
それは、苦い真実のようなものです。
たとえそれが、狂気の沙汰になりかけているように見えても。
いたるところに飢えた人々がいる、まだ生きている赤ん坊が死んだ母親の元に荷車で投げ出される、カニバリズムはかつてないほど近くにあるように見える。
特筆すべきは、この映画で描かれるすべての出来事に、飢饉の時代の本物の歌が添えられていることです。
歌は、歌い手たちの希望と絶望を伝えている。
ウェールズの若いジャーナリストの人生におけるホロドモールは、個人的な悲劇に発展している。
無力さと弱さの悲劇。
ガレスは、自分が突破できない壁、つまり権限とただ向き合う。彼は他の影響力のあるテコを探し、それを見つけることに成功する。
しかし、変化をもたらすことのできる人々は、遠く離れた、戦略的に重要でない一部の人々の問題には無関心なまま。
誰もいない街角の突き刺すような寒い冬も、登場人物も、誇張されたイメージとは程遠く、もっともらしく、事実に忠実なイメージに見える。
ソ連ちゅう巨大な機械の中での、当時の人々の生活が詳細に描かれている。
それは、プロパガンダが真実よりも強く、すべての人々が明るい共産主義の未来に向かって幸せに動いている現実であり、何百万人もの人々の死は進歩というキャッチーなスローガンに包まれて、他人の目から離れた深い引き出しの中に隠されている。
アグニェシュカ・ホランドの映画で取り上げられた多くのトピックは、今日にも通じるものがある。一部のメディアはポピュリズムとプロパガンダを人々に浴びせかける。
一流のメディアでさえも、時には事実確認を怠り、信頼性のない情報を流す。
現在進行しているロシアとウクライナの問題についての日本メディアの対応など欧米を慮った依怙贔屓か忖度色が強くて辟易する。
話はもどり、
では、ガレス・ジョーンズが真実を突き止めようとしてから、状況は変わったんやろか。
客観的な真実は、いつでもどこでも確立されているんやろか。
前者は多分そうだろうけど、どうやら、後者の問いに対する答えは議論の余地があるようです。
誇張、操作、そして、人類共通の問題は、現代社会にとっても重要であると思います。
そやし、今作品は、単に過去への旅というだけでなく、現代の我々が直面している問題を映し出す鏡として考えるべきなんやろな。
ただし、現代の我々が経験している困難は、少し違って見えるかもしれないが。。。
ジョーンズは単なる映画やなく、人々の生活の一部であり、現実の生活であることに気づくのは難しい。
誰かが早く亡くなり、誰かがもう少し長くその地獄に留まり、そしてごくわずかしか脱出することができなかった。
アグニェシュカ・ホランドの映画そのものが、共感し、戦い、憎み、許す、小さな人生として体験されるべきものなやろうな。
今作品の献辞にはこうある。
翌1935年8月、内モンゴルで取材中、ガレス・ジョーンズは盗賊に拉致された。
彼は、ソ連秘密警察とつながりのあるガイドと一緒に旅をしていたが、そのことは知らなかった。
彼は30歳の誕生日の前日に射殺された。
1957年、フロリダで73歳の生涯を閉じた。
彼のピューリッツァー賞は取り消されることはなかった。
ホロドモール-スターリンの飢饉で殺された数百万人を偲んで。
と感慨深い。
kuu

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