ねーね

赤い闇 スターリンの冷たい大地でのねーねのレビュー・感想・評価

3.4
1932年〜33年の旧ソ連、スターリン権力下にて5ヶ年計画の一端としてウクライナで秘密裏に行われた人工飢饉=ホロドモール。
当時ソ連はその事実を隠蔽していたが、友人記者の不審死をきっかけにウクライナへ乗り込んだ、ガレス・ジョーンズという若き英国のジャーナリストがいた。
彼の目撃した凄惨な実態、そしてそれを公にできない理不尽な政権への怒りや葛藤を映し出す、重厚な社会派作品だ。

恥ずかしながら、ホロコーストはよく知っていても「ホロドモール」という単語すら知らなかった私。
ソ連が世界恐慌の混乱を免れた理由でもある5ヶ年計画、そしてそのために実施された、非人道的すぎる農業政策。
冷たく吹き荒れる雪の中で次々と餓死しながらも穀物を奪われ、ついには親族の肉を食らう子供たち…
目を疑うような出来事が淡々と画面に映し出され、このようなことが国政としてまかり通っていたなんてとても信じられなかった。

ホロコーストでの犠牲者は約600万人との記録があるが、ホロドモールではそれをゆうに越す700万人もの死者が出たとも言われている。
それはウクライナ人口の5人に1人にも及んだそうだ。
ガレス・ジョーンズの努力も虚しく、近年に至るまでこの事件の存在は明るみに出ていなかったということがさらに恐ろしさを助長させる。
スキャンダルを追い求めるでもなく、ただただ事実を報道したいというジョーンズの熱きジャーナリズム精神とその勇気は尊敬に値するが、エンドロールで彼の最期を知り、やるせない気持ちでいっぱいになってしまった。
だが、現代を生きる私も、こうして忘れてはいけない歴史を知り考えを深めることができた。
だからこういった真摯な社会派作品を作ることには意味があるし、もっと多くの人に知ってほしいと強く願う。

しかしここまで時間が経っていながら、なぜ日本であまりホロドモールの歴史が知られていないのか、トピックとして取り扱われることが少ないのか…
気になって調べてみたところ、世界の多くの国や機関がこの事件をジェノサイド(虐殺)もしくは人道に対する罪として承認しているが、日本はどちらも承認していないのだそうだ。
日本が中立的な立場をとりたがる国であるということもそうだが、ジェノサイドの定義としてこの事件が当てはまるかどうかという観点でさまざまな議論がなされているらしい。
そのあたりは私も勉強不足なので、これを機に色々と知る必要性を痛感している。

いずれにせよ、ホロドモールのことを知らなかった人にこそ観てほしい作品であることに変わりはない。
白く黒ずんだ雪景色の中、子供たちの生気のない歌声が、いつまでも耳に焼き付いて離れない。
ねーね

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