CHEBUNBUN

赤い闇 スターリンの冷たい大地でのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

3.0
【その道はトロッコ問題へ続く】
あつぎのえいがかんkikiでアグニエシュカ・ホランドの『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』を観ました。アグニエシュカ・ホランド映画は毎回真面目だけが取り柄な微妙な作品が多い気がするのですが、これは社会派エンターテイメントとしてなかなか面白い作品でした。

20代にしてヒトラー取材に成功したガレス・ジョーンズは、ソ連に鋭い視線を向ける。ソ連は繁栄していると言われるがどうなんだろうか?単身ソ連に渡り潜入取材することになる。しかし、ソ連は記者を一箇所に軟禁してなかなか真相が掴めない。ホテルからは、1週間の滞在な筈なのに2日と言い渡される。他の記者は飄々としているが「『赤死病の仮面』を読め」と暗号のようなメッセージを読む。『赤死病の仮面』といえば、赤死病が蔓延する世界で、籠城するブルジョワが豪華絢爛な宴をしているうちに赤死病を招き入れてしまい、共倒れとなる話。豪華絢爛なホテルに軟禁された記者たちの運命を示唆する本と言える。そんな中、ジョーンズは汽車で地方訪問する際に、暗殺の危険を感じ逃走する。逃走の果てに彼がたどり着いたのは、豊穣な土地な筈なのに飢えた人で溢れかえり、子どもが人肉を食べる悲惨な状態であった。命がけで帰国した彼はこの事実を報告するかどうかで悩む。報告すれば、ソ連にいる記者数名が殺される。だが報告しなければソ連にいる何百万人もの市民が餓死する。トロッコ問題の果てに彼が下した決断とは何か?

本作はソ連の飢饉隠蔽問題を単純化しすぎな気もするが潜入サスペンスとしても面白さに満ちた作品だ。記者が愚直に調査していくうちに裏で蠢く恐ろしい闇がちらつく。そしてだだっ広いソ連の荒野でさまよう中でたどり着く真実の壮絶さをクライマックスに配置せず、その後の記者としての苦悩に力点を置くところにアグニエシュカ・ホランドの腕を感じさせます。ただ、冒頭の『動物農場』メタファーに始まり、ガレス・ジョーンズの知名度の低さをジョージ・オーウェルで上塗りしようとするあざとさにはがっかりするものがありました。そこはいつものアグニエシュカ・ホランドなんだね。
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