じぇれ

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカのじぇれのレビュー・感想・評価

3.7
【被害女性たちへのレクイエム】

醜い容姿のフリッツは女に見向きもされない。それでも日々ナンパに励み、年増の女性をお持ち帰りするのだが……
50年近く前にドイツを騒然とさせた猟奇的事件の映画化。

衝動的に女性を殺しては死体の処理に手間取るフリッツ・ホンカの姿を淡々と描く本作。メリハリには少々欠けるものの、次第に2つの問題意識が浮き彫りになります。
①フリッツ・ホンカはただの異常者なのか?
②被害女性たちはなぜフリッツについていったのか?

監督は敢えてフリッツが抱えるトラウマを描いていません。映画界の定石を外す代わりに、まだ20代前半の俳優を中年殺人鬼役に抜擢。これによって過去の説明を省略しながらも、目でイノセンスを表現したそうです。この是非は分かれるかもしれませんが、一定の効果を上げていたと私は思います。

映画館という暗闇の中でフリッツの眼光を浴びた瞬間、私の身体は強張りました。殺人鬼の異常性に怯えたのではありません。フリッツが私たちと同種の人間と感じたからです。明日は私が屋根裏の殺人鬼になっているのかもしれません。

同様に、被害女性たちの人生が垣間見えてくると、この事件の見え方が変わってきます。彼女たちはなぜ、たった1杯の酒だけでフリッツについていってしまったのか?そう、彼女たちが背負うものもまた、本作のテーマとなってくるんです。

50年近く前の事件ではありますが、今映画化すべき理由が明確な作品だったと思います。
じぇれ

じぇれ