CHEBUNBUN

イエスタデイのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
4.0
【《何を》したかではない《誰が》したか】
「ビートルズのない世界でビートルズの曲を使ってスターになる話」

一目で「面白そう!」と思うが、2010年代においてこれはダメなんじゃないと不安がよぎるあらすじだ。SNS時代、もはや周知の事実だろう「何を言ったかよりも誰が言ったかか」が重要視されていることは。

Twitterで同じ投稿しても、方や2万RTされ、方やリツイート全くされない。誰が言ったか、どのタイミングで言ったかが複雑に絡み合ってバズるのです。

さて、そんな時代に似つかわしくないプロットの『イエスタデイ』は毎回思わぬ驚きを軽快に魅せてくるダニー・ボイル監督が手がけているので、決してビートルズファンムービーに留まることはない。それは本作に隠されたギミックを観れば明らかだ。まさしく、本作は2010年代人々の頭の片隅にある「《何を》したかではない《誰が》したか」問題を捉えた傑作であった。

まず、ダニー・ボイルは主人公のカリスマ性のなさをサラリと描く。イケイケな曲なのだが、素人臭い感じをガラガラな客席描写にもたれかかることなく、しっかり音楽で魅せてくる。

そして、突然ビートルズのない世界に転送された彼は、こことぞばかりに身なりを整え、記憶が薄れないようにビートルズの曲をメモり、猛特訓する。

ここが重要だ。予告編の感じだと、すぐにトップスターに成り上がっているように見えるのだが、本編ではなかなかブレイクしないのです。「LET IT BE」を完璧に歌っても見向きもされないのです。そう、これは他人の曲。ビートルズが自身の哲学を曲に流し込んだプロセスを正しく辿っている訳ではないし、あのカリスマ性は彼にはなかったからだ。

しかし、運良く売れてくる。有頂天になる彼だったが、彼にはクリエイティブのクの字もない。あれよあれよと言う間にブレイクし、人がまるでゴミのように見える世界。彼が「いつか正体がバレるかもしれない」「自分の身の丈に合わない群衆が怖い」と思い「Help!」と叫ぼうとも誰も気づかない。信じてくれない。

本作は自分の身の丈に合わないバズり方をした男の苦悩を描いており、その周りの薄っぺらい熱気までを取り込んでいたのだ。それはSNSでバズり、その異常さに怯えるも、すぐさま忘れ去られてしまう現代社会の一面を風刺していると言えよう。

これをビートルズと引き合わせたダニー・ボイルは凄い!ビートルズの「人が僕らの音楽を聴いてくれない」理由に解散したエピソードを組み込みたいだけに、ビートルズを使っている訳ではない。主人公が羽織るに絶妙にブカブカなラインをビートルズに託したのです。政治的、哲学的メッセージが強いボブ・ディランやカリスマ性が求められるザ・ローリング・ストーンズ、曲が超絶技巧難解なザ・フーではなく、アイドル的軽快さとゆるさを持つビートルズだからこの物語は成立できたと言えよう。