〈売れない童貞シンガーの夢物語〉
ビートルズのいない世界で売れていく主人公ジャック。トントン拍子な出世はいいが、肝心のセンスがついていかない。どこか不格好なままで、慌ただしい。この感じは自分にも思い当たる節がある。高い服を買ってみたが自分の身の丈に合っておらず、服に着られてしまっているような感覚だ。
また、最終的に自分に分相応な過去に立ち戻るというのも悪くないし、この展開を以って『Yesterday』なのだと、タイトルにも合点がいった。
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しかし、だ。如何せんこの映画そのものも、ビートルズに“着られている”ような作品だった。「ビートルズがいなかったら」という奇想天外な掴みに、後続のストーリーがついていけていないのだ。
ロマンスの描き方や成り上がりのプロセスが不燃焼なところも微妙なのだが、本作最大の欠陥は「ビートルズの曲は全て称賛される」という一面的な設定だろう。ビートルズの曲でも改めてこの21世期に登場したら売れる保証はない。そこまでウケのよくない可能性だってある。あるいは、ビートルズの4人のカリスマ性や歌声と噛み合ったから人気が出た曲もあるだろう。なぜ別のシンガーが初めて歌ってもすべて大衆にウケてしまうのか。あまりに短絡的ではないか。(“Hey,Jude”の件で若干カバーはしていたが)
エド・シーランが即興作曲バトルで「僕の歌なんかと比べないでくれ、完敗だ」などと手放しにベタ褒めするところもすごく冷めてしまった。
結局、本作から感じるのは「ビートルズへのリスペクト」ではなく、「ビートルズのコアファンを傷つけないようにしようという保身的な考え」だ。当たり障りのない内容にしたようにしか思えなかった。