はる

イエスタデイのはるのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
4.2
ビートルズがいなかったら、ビートルズが結成されなかったら、彼らが出会わなかったら。それは音楽シーンにとどまらず、社会やポップカルチャーにおいても何かが生まれなかったり、逆に何かが生じた可能性もあるだろう。それが良いものがどうかはともかく。そうした事象をイチイチ拾うこともないが、想像することの楽しさはあるということ。それが今作の魅力だろう。
そんな今作でもっとも「アッ」となる場面は「ビートルズが結成されなかった」世界なのに、ビートルズファンこそが様々な思いを抱くものになった。
無くなってあらためてわかる、ということはいろんな対象で語られてきた物語だと思う。しかし現代の音楽シーンにも響く対象として「ビートルズ」は最も相応しいはずだ。
主演のヒメーシュ・パテルの歌唱も絶妙なクオリティで素晴らしく、リリー・ジェームズとのカップリングも良かったと思う。

さてネタバレ。
すごく気に入っているのはモスクワとリバプールの男女のこと。
ジャックが違う世界で目覚めたくだりでは「あの停電のタイミングで意識を失っていた人」は他にもいるのではないかと考えていたので、あの2人がそれぞれ現われると「やはり」となる。
2人が記者会見でまずジャックに「秘密を知っている」ことを匂わせるところでは、まだ2人はジャックに疑念を抱いていたと思う。ただカネが目的なのではと。
それがあの『Help!』のパフォーマンスを見て、ジャックの苦悩に気付いたのだと思う。大ファンであるあの2人にはこの曲の成り立ちや背景がわかっていたはずで、彼には助けが必要だと感じたからあのように「黄色い潜水艦」を持って楽屋に乗り込んでいったのだ。あそこで交わされるファン同士の共感が最高だったし、歌詞の間違いの指摘など笑えるし、温かいシーンだった。
そしてジャックにあの人のことが伝えられる。自力で調べ上げた事にもグッとくるが、彼らはジョンが生きている世界を喜び、受け入れていたんだと思うとなおさらだ。そして、自分たちが経験しなかった「ビートルズがいない世界」とそこから「生まれる世界」の狂乱を体験した喜びも感じたのではないだろうか。

また他に考えさせられたのは、記録媒体やスコアがある場合では盗作となってしまうが、その昔では伝承であり、口伝で良い音楽が継がれていくということの尊さ。これは『Cold War』を観たときにも感じたことだけど、あらためてその行為の素晴らしさを感じた。
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