こたつむり

イエスタデイのこたつむりのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
3.6
♪ 音や声に 左右されたいな
  頭を カラダを 左右されたい 毎晩
  まだ眠たくないや

基本的にダニー・ボイルは好きな監督さん。
特に音楽の使い方が好きなのです。本作でも、ビートルズの曲の間を埋めた旋律がとても優しくて。物語の“温もり”を見事に表現していました。

だから、諸手を挙げて褒めたい…のですが。
作品全体に“甘ったるさ”が漂っていて、監督さんの長所である“スピード感”が機能していないのが微妙。次々と繰り出したパンチが“軽いだけ”で終わっているのです。

思うに脚本と監督さんの相性が悪いのでしょう。キャリアを振り返ってみれば『普通じゃない』とか『ミリオンズ』とか。サスペンス性が低い物語は、監督さんの魅力に欠けていましたからね。

ちなみに脚本はリチャード・カーティス。
『ラブ・アクチュアリー』や『アバウト・タイム』を仕上げた御方ですね。だから“ぬるぬる”の優しさに満ちているのも当然の話。

それを考えれば。
「ビートルズが存在しなかったら?」という考証を突き詰めた作品ではなく、本物と偽物を対比させて“ぬるぬる”の優しさを引き出した物語…として受け止めた方が良いのでしょう。

特にそれを明示しているのが配役。
初主演となるヒメーシュ・パテルは“へっぽこ”ミュージシャンでしたし(高音に物足りなさを感じるところなんて見事)リリー・ジェームズの可愛らしさは満点の説得力。彼女を放置するなんて人類史に残る愚行ですね。

まあ、そんなわけで。
ビートルズを触媒として描いた愛の物語。
ダニー・ボイル監督作品として捉えない方が純粋に楽しめると思います。

あと、楽曲に興味がない人に訴求するかどうか。個人的にビートルズで一番好きな曲は『Help!』なのですが、本作では大胆なアレンジが施されており“コードの良さ”を感じませんでした。切なさが足りなかったのです。

あー。
なんだか点数の割には苦言ばかりでスミマセン。面白かったんですけどね。思い返すと粗ばかり目立って…。むう。
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