GodSpeed楓

イエスタデイのGodSpeed楓のネタバレレビュー・内容・結末

イエスタデイ(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

"異世界転生もの"というジャンルが現在進行形で世の中に大量生産されている昨今、本作もその例に漏れず"異世界へ飛んでしまって俺ツエーする作品"と言える。ただし、世界中の音楽ファンに崇拝されている、"ビートルズが失われた世界"という限定的な違いの異世界であり、主人公が戦える武器は"音楽のみ"しかないというのが本作のミソ。彼はルックスが良いわけでもなく、性格がぶっ飛んでるわけでもなく、スター性があるわけでもない。

・ビートルズの存在しない世界で、ビートルズの曲は通用するのか?
・演奏者がビートルズじゃなくても評価されるのか?
・あの時代だからこそ成功したのでは?
・2010年代にビートルズが表れて、それを売り出す方法は?

また、上記のようなプロデューサ側の視点も多少交えながら、"最強の武器だけ"を手に入れた男が葛藤しながらサクセスしてくという物語である。

そんなサクセスストーリーの中で際立っている存在として、エド・シーランをあっさり見捨てる性悪マネージャが最初から最後まで分かりやすく悪役を貫いている。えげつない罵倒(むしろこれは現代的とは思えないぐらい酷いものだ)を浴びせ、プレイヤの意思を踏みにじり、口答えしようものなら皮肉で迎え撃つ。端的に言ってゴミなので、痛い目を見てしかるべき存在と判断頂いて問題無い。こんなにアーティストにリスペクトの無いマネージャは、あくまでデフォルメされてるのであり、現実にこんな奴が存在しない事を心から祈るばかりだ。ただし、「サージェント・ペパーズ~」「ホワイトアルバム」「アビイロード」という歴史的名盤の3タイトルに対して、プロデューサが"売れるわけねぇ"と言い放つ、異世界ならではの光景には笑ってしまったが。

歴史改変の一部として、ビートルズがいないからオアシスも消滅するのは何となく分かるが、「In Rainbow」のポスターが貼られている事からレディオヘッドは生存している模様。トム・ヨークだってビートルズ好きだと思うが、そこを指摘するのは野暮ってものだ。ハリー・ポッター、コカ・コーラ、タバコと色々消えてる世界線のようなので、他のどこかに飛ばされた異世界人がヒットを狙っている物語が存在する事を示唆しているのかもしれない。

ビートルズを知っている人との出会いは感動したが、世界線は2つしか存在しないのだろうか?それともあの2人はビートルズは存在する別の世界線から現れた存在なのか?といった疑念は晴れる事は無い。しかし、本作はジャックとビートルズにスポットライトを当てた作品であり、そういった別世界との関係性や、発生しうるパラドクスなどに言及するSF作品では無いので多くは語られないのは仕方のない事である。長尺に耐えられるドラマなどでやるしかないだろう。

ホテルの屋上で演奏するのが「Help!」(めっちゃBPMが速いアレンジで笑える)だったのは意外だった。てっきり「Get Back」を演奏するかと思っていたのだが、あの時のジャックの気持ちを鑑みれば「Help!」の方がしっくりくるというところか。基本的に各楽曲は現代風にアレンジされているのだが、ラストの「All Need Is Love」はブラスバンドを引っ張ってきてまで原曲再現しているのは、"これはビートルズの曲なんだ"というジャックの意思表明なのだろう。

虎の威を借ることで発生する葛藤など、予想できる展開やコミカルなシーンも多く、利益優先ではない幸せを選択してハッピーエンドという王道まっしぐらなストーリーのため、万人受けするのも非常に分かるのだが、尖った映画大好きマン(ウーマン)には刺さらない人も存在するかもしれない。

実際には本作は、"どれだけビートルズを好きか"で評価が変わる作品だ。
僕はビートルズが大好きだから、この映画も大好きだ。

あなたのいる世界は、何か失われているかな?
もしかしたら、それはビジネスチャンスかもしれない。
GodSpeed楓

GodSpeed楓