Tako

イエスタデイのTakoのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
4.0
ビートルズが”存在しなかった”世界線に入り込んでしまった売れないシンガーソングライターの苦悩と答えを描いたファンタジードラマ。
夢と名声と愛について描いた手堅い一作で、どこかほっとするような爽やかな視聴感を得ることができます。

幼馴染にマネージャーとしてサポートされながらも、何年も芽が出ないシンガーソングライターの主人公がある日、自動車事故にあったところから物語が始まります。
快気祝いで一曲披露してみると、なんだか違和感が。
なんとそこでは誰も「ビートルズ」を知らなかった――

という漫画『僕はビートルズ』によく似た構図の映画となっていますが、描きたい対象はやや異なっています。漫画はオリジナリティや「ビートルズ」の意義そのものに焦点が当たっていますが、本作では売れることと、それに伴う人間関係の変化、一歩を踏み出す勇気など、よりドラマリティを全面に押し出している作風です。

作品全体の色合いが非常に素晴らしく、ちょっと流れが暗くなっても爽やかな印象を与えます。もともと田舎出身の主人公ということで、地元の風景は青や緑などの色彩に溢れており、瑞々しい空気感が印象的です。
キャラクター造形も生々しすぎず、それでいてしっかりドラマを組むにふさわしい人物像で、嫌味やストレスなく物語を楽しむことができます。

プロットラインはとてもシンプルで、ビートルズがない世界線なのだから、自分がビートルズの楽曲を使ってしまえばめちゃくちゃ売れんじゃないか!? という誰しもが考えるような作戦を実行します。
思惑通り、とはいかないものの、徐々に知名度上げていき、なんとエド・シーラン(本人が出演)に見いだされるとあとはトントン拍子に売れていきます。この軽快さもちょうどいい塩梅。あんまりにもあっさり成功するとそれはそれでつまらなく、成功するまで引き延ばしすぎるとこれもまたダレてしまうので、かなりバランス感覚の良いストーリー進行でした。

ただ売れていくたびに、主人公には罪悪感がじわじわと迫り、世界でただ一人しか体験しえない苦悩を味わう羽目に。いわば究極の孤独状態ですが、売れるためには「ビートルズ」を使わざるを得ず、使えばまた苦悩すると、逃れられないジレンマを常に抱えています。
これが人間関係にも影を差し、本当に愛する幼馴染との距離感にもよくない影響を及ぼすようになっていきます。
この匙加減については、けっこう視聴者の好みによりそうです。
というのもヒロインである幼馴染は完璧な受け身体質で、主人公から直接アプローチしてもらわない限り、ほとんど動こうとしません。
一念発起して行動しても、また素直な気持ちに従ってくっつく、ということもできずじまい。このキャラクター造形は共感を得られる一方でじれったいな! とイライラする人もいても不思議ではありません。
個人的にはぜんぜん許容範囲だったのですんなり楽しめましたが(というかこの関係性が本作のすべてなので、これをあっさり解消すると着地点が消滅してしまいます)

楽曲の使い方も見事で、キャラクターのシチュエーションと楽曲の歌詞やタイトルがマッチさせる方法は、思わずにやりとします。
年代、バリエーションも幅広く、ビートルズが好きな人、初めて聞く人その両方が見ても楽しめるでしょう。

物語に決着をつけるシーンでは、とある人物が重要な役割を果たしますが、よくこれほど似た人物を見つけ出した! と素直に関心しました。
セリフも素晴らしく、本作を締めるに相応しいシーンが印象的です。

自己実現と名声、人間関係や夢などを描いていますが、その基盤になっているのは恋愛映画のそれですので、そういった作風が好きな方にはオススメの一本です!
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