chi

映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコのchiのネタバレレビュー・内容・結末

-

このレビューはネタバレを含みます

乗り越えられる格差と乗り越えられない格差の物語であるが、その格差は常に登場キャラクターの間で起こっており、鑑賞者が映画全体と対立してしまわないよう徹底されている。終盤の脱出時にさっさと出ていってしまう雑草が顕著。
IPとしてのすみっコぐらしに惹かれる層をよく研究した甘い慈しみと苦い妥協の物語でありながら、レギュラーメンバーであるすみっコ達の事情には深く踏み入らなかった点も優秀。

数々の名作、ひよこ、そしてすみっコ達と、出自の違う登場キャラクターが様々な切り口で次々に二分化され最終的に「絵本の中と外」に分断されたかと思いきや、エンディングでまた条件が変化し、ひよこの立ち位置がすみっコ達と同じ側に移動する。「主役と脇役」の主役側に。

絵本の中で、すみっコ達は様々なおはなしの主役を演じるが、本物の主役は最後の一作を除いて出てこない。絵本の中のひよこ以外のキャラクターはすべて脇役であり(これは人間を丁寧に取り除いた結果かもしれない)、ひよこが演じようとした役にだけ本物が現れる。絵本自体が読者を主人公の椅子に座らせる構成になっていることが窺われ、そのため読者たりえないひよこが座ろうとしても絵本に気付かれずデフォルトの主役が出現したのだろうか。

脇役達は序盤はすみっコ達を強く物語に引きずり込もうとするが、最後には脱出を手伝うようになる。この変化はひよこの意思の移り変わりそのままであり、脇役達に意思が存在しないこともまた示している。

そしてエンディングで「おうち」を獲得したひよこは、ページがズタズタに引き裂かれて風通しが良くなった絵本の中で、自身が冒険で得たすみっコ達のパーソナリティを彼らを模したなかまのひよこに与えていく。他のおはなしの脇役の行動を動かしたようになかまを育てていく様子は、脇役として落ち着くおはなしを探していたひよここそが絵本全体の主役として他のキャラクターを率いる立場になった描写と取れる。

絵本の中に君臨したと言えば聞こえは悪いが、メンタリティが脇役から主役に変化したと言えば昨今の自己啓発の理想そのものだ。
地元や実家を飛び出して自分を探し続けるうちに飛び出した動機を忘れた人間が、肥えた目で帰ってきたときその殺風景さに絶望する。しかし自分は地元で生きていくしかない、だから旅の中で見知った理想の景色を作りつつ旅で見知って今も生きている人々との交流も続ける……地元に帰って起業する意識の高い若者のような体験。理想の土地には住み着けないが、理想の人々のようにはなれる。その妥協がいみじくも世相を捉えている。
chi

chi