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フリーソロのRenのレビュー・感想・評価

フリーソロ(2018年製作の映画)
4.0
【フリーソロ・クライミング】命綱や安全装置を一切使用せず、自らの手足だけで岩壁を登るクライミングスタイル。今作ではフリーソロ界の若きスーパースター アレックス・オノルドが、約975m、数多の難所が立ちはだかる絶壁エル・キャピタンへ挑戦する軌跡を追う。
(Wikipedia・映画「フリーソロ」公式サイトより)

手に汗握るとはこのこと。常に死の可能性を隣り合わせた危険映像だが、安易な衝撃映像には絶対にしないぞという意識が毎秒ある。高所恐怖症の方は当然のように閲覧注意。

未知の世界の話なのに生々しい。
鑑賞中何度も「そんなバカやってないで降りてきなさい!」と言いそうになるが、次第に口を開けたまま何も言えなくなってくる。ありありと映し出される圧倒的な死の恐怖と生の実感に飲み込まれていく。

アレックスのフリーソロへの探究心や好奇心は理解はできない。人間は常に死と隣り合わせだ、とその口で言われても困惑してしまう。でも、何かに取り憑かれたように挑戦を繰り返す人間の熱量と、誰が観ても「怖い」と思う映像は今作を好きになる理由として充分すぎる。

アレックスの生き様だけでなく、彼を「撮る」側の苦悶と葛藤が描かれるのもドキュメンタリーとして立体感がある。
スタッフやカメラクルーも一流のクライマーで彼の仲間だが、どこにロープを垂らしてどこにカメラを置くか、あらゆる検討を繰り返す。何より「我々が挑戦の集中を削がないか」「(友人の)死の瞬間を見て/カメラに収めてしまうのではないか」という精神の葛藤が分かるのが誠実だ。
このおかげで、これはジャッカスのような露悪趣味全開の激ヤバおバカ映像(あれはあれで好きだけど)などでは断じてない、「全員が命がけで、クライミングというライフワークに執念を燃やす等身大の人間を捉えた」記録映像としての深みが増す。

今作を観ながら、どうしても近年のトム・クルーズを思い出してしまった。リアル志向のアクション俳優としてどんどん持て囃されてきているけど、ファンは別にそこまでのことを望んで無いし死ぬことがゴールになっているのでもうやめて!と個人的には思っている。
『フリーソロ』は生の実感を得ることへの好奇心と探究心をライフワークとする人間を→命懸けで捉える、という順番。対してトムは面白い映画のために→自らを死の危険に晒しているのが、彼がやっていること以上に危険だ。このドキュメンタリーを観てそんなことを考えた。

その他、
○ クライマーが手を滑らせて地面へ向かって落ちていくガチのシーンが流れて死にそうになった。
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