幽斎

SKIN 短編の幽斎のレビュー・感想・評価

SKIN 短編(2018年製作の映画)
4.8
長編「SKIN/スキン」ベースと成った短編「SKIN 短編」アップリンク京都で長編と短編が同時上映されたが、時間が合わず長編はイオンシネマ京都桂川で鑑賞。アメリカの配信で観ようとした矢先、世界的なBlack Lives Matter運動の高まりを受け、公式サイトの無料配信で鑑賞。配給元コピアポア・フィルムは「イカリエ−XB1」の様なミニシアター系で知られるが、英断に拍手を惜しまない。映画ファンはジャンルを越えて見逃し厳禁!。

無料配信を決断する契機に為ったのは、長編が公開される直前2020年5月25日にミネソタ州ミネアポリスで警察官が黑人男性を死亡させ、全米で抗議デモが相次いだ。この事件はKilling of George Floyd「ジョージ・フロイドの死」と呼ばれ、SNS上で#Black Lives Matterを付けた抗議運動が世界中で広がる。私が説明するよりニュースを見て頂いた方が分り易い(一部暴力シーンを含みます)。この様な行為をアメリカでは「システミック・レイシズム」と言う。
https://www.youtube.com/watch?v=vksEJR9EPQ8

Guy Nattiv監督は⻑編映画「SKIN/スキン」の出資を募る目的で、全額自己負担で製作。今この瞬間も白人と黒人の対立は広がる一方。人種問題を子供の視点で描いた本作はアカデミー短編賞受賞。短編と⻑編はリンクしないが、現在に通じるアメリカが抱える闇を問い掛ける。第91回アカデミー賞受賞式の模様はオスカー公式で。
https://www.youtube.com/watch?v=x-fsRO3CbW8

少年役は「IT/イット“それ”が見えたら、終わり。」Jackson Robert Scott、父親は「告発のとき」Jonathan Tucker。妻を演じる「ダンプリン」Danielle Macdonaldは、本作の演技が評価され長編「SKIN/スキン」にも出演。Guy Nattiv監督はイスラエルでキャリアを磨き「オフサイド」で国際マーケットに進出。短編を子供の視点で描いたのは、観客が感情移入し易い事と自分達の境遇に置き換え、何時か自分にも降り掛かって来る。と言う思慮と思われる。文字通り「肌」で感じる作品。

事前情報が断片的なモノだけ。と言うのもアメリカ在住の京都人から「ラストが衝撃的やさかい絶対にpreliminary、予備知識ゼロで見んとあかんで!」と厳重に言い渡された"笑"、ホントかねと疑心暗鬼に見たが、久し振りに「場が静まりかえる」作品に遭遇。本作を観た後続けて長編を見る程、私も神経が図太い訳では無い。更生物語と勝手に解釈した先入観も有り、リベンジを期待した願いは見事に裏切られた。私のレビューで「裏切られた」と言う形容を使うのは珍しい。其れ位「厭世」なプロットに言葉もない。

冷静に観れば本作は「寓話」で有り、ホラーで言うなら「ほん怖」に近いテイストとも言える。子供達が駐車場で視線をぶつけ合うシーンは、暴力の連鎖を見事に表し、Jonathan Tuckerも「煽り運転をする人ってこんなんだろうな」ムードを巧く演じた。ホント、ナンバーが○ケタの人って怖い"笑"。難しい立ち位置Danielle Macdonaldの演技が素晴らしく「いるいる、日本にもこんな人」感が最高。カメラワークが秀逸で、ドキュメンタリーに為りがちな構図を、実写的と写実的の差を上手くアレンジして、抑揚の効いたリアルさが深みを与える。

「白人至上主義」もレイシズムの一形態に過ぎず、エスノセントリズム、カハネ主義、中華思想、ナチズム、アーリアン学説、反ユダヤ主義、シオニズム。根底に有るのはヨーロッパの植民地支配で、優生学の名で正当化。第二次世界大戦で敗れた日本人は黄色人種と呼ばれ、アメリカ本土に居た日系人は市民権を停止され、強制収容所に送られた。同じ枢軸国ドイツ、イタリアの子孫は制限を受ける事が無かった為、白人以外に対する差別として、現代ではレイシャルハラスメントと言う。

長編へと繋がるテーマとして「White Trash」が有る。これは州に依って言い方を変え、東海岸ではクラッカーとも呼ばれる。簡単に言えば「白人」の低所得者層を軽蔑する言葉で、日本のニュースでは「プアホワイト」とも言う。アメリカを代表する小説家でノーベル文学賞William Faulknerの代表作「サンクチュアリ」等で貧困層の白人を表すワードとして登場。因みに彼はロスト・ジェネレーションの語源の作家でも有る。文学的には蔑称ですが、彼らは模範的秩序から逸脱した生活を送り、政治にも、法律にも、道徳にも従わない全ての権威を否定する生き方の形容詞。このフレーズは皆さん大好き「フォレスト・ガンプ/一期一会」にも登場。貴方の人生最高に濃密な21分に為るのは間違いない。

長編よりも短編の方が「刺さった」スリラー映画を凌駕するラストに震えるがいい。
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