回想シーンでご飯3杯いける

五億円のじんせいの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

五億円のじんせい(2019年製作の映画)
3.7
「人が一生を費やして稼ぐ金額と、一生の間に使う金額はほぼ同じ」

なかなかインパクトのあるフレーズで幕を開ける作品。主人公は幼い頃に心臓病を患い、善意の募金で集まった五億円で手術をし、命を救われた経緯を持つ少年。将来の進路を考えなければならない年齢になったものの、どうにも彼は五億円の善意に見合う大人になれそうにない。そして彼は、五億円の「借り」を返し、自由になる為の旅に出る。

日本映画でこれだけ豊かなアイデアを持った作品がオリジナル脚本で登場した事が嬉しい。そのぶっ飛んだ、そして示唆に満ちたプロットは、どこかインド映画、特にアーミル・カーン周辺の作風に近いものを感じる。

旅の中で、ホームレスや日雇い労働の元締めの世話になる中で、金額では測れない人の価値を知ってく様子は、正に期待通りの展開。ただ、詳しくは書かないが、その後に違法な性風俗産業等、反社会組織に搾取される展開は、いかにもリアリティを重視する日本映画の典型という感じで、そこは少し残念に感じた。

高校生が五億円の借りを返す為には、犯罪に手を染めなければならないという理屈は分かるのだが、ならば、せめて主人公がそこに葛藤を覚える描写が欲しかった。若しくは、銀行強盗の一団に加わるぐらいの大胆な展開があった方が、映画としての振り幅が大きくなって良かったのではないか? それは単に僕の好みの問題かもしれないけど。

と、若干の注文を書いた物の、他に類似作品が見当たらないオリジナリティは素晴らしいと思うし、こんな映画が日本からもっと生まれてきて欲しいと思う。