塔の上のカバンツェル

トールキン 旅のはじまりの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

トールキン 旅のはじまり(2019年製作の映画)
3.6
トールキンの伝記映画。

「ホビット」「指輪物語」の刊行までの彼の生涯を描く。

P・ジャクの「ロードオブザリング」が死ぬほど好きなので、最早義務で観賞

トールキンの創作意欲に多大な影響を与えた、秘密クラブ"T.C.B.S"の親友たちとの親交が、「旅の仲間」に繋がっていくまでの話運びに、本作の力点があるのかなと。

トールキンの伝記映画であると共に、彼の青春を共にした、親友たちであるT.C.B.Sとの青春群像劇でも本作はある。

なので、史実の彼らが歩んだ人生を踏まえると、哀しいなぁ…。


ロバート・ギルソン(1916没)
ジェフリー・スミス(1916没)
クリストファー・ワイズマンは、終戦後に恐らくPTSDから廃人と化してしまったそう。

トールキンが労働者階級かつ、南アフリカ出身(当時のオレンジ自由国)という異端に対して、T.C.B.Sの面々が、英国の典型的な上流階級出身という関係性も、当時の世相を反映してるなぁ〜と思う。

第一次世界大戦後に、上流階級の若者たちが大量に戦死して、労働者階級や中流階級、女性の社会進出など、社会構造が大きく変化していく過程にあったわけで。

その最中にトールキンが新しく構築した神話世界が、広く世界に親しまれた下地もまた、あったのかなと。

本作では「指輪物語」や彼の創作における、言語から神話体系を構築する彼の資質をマイルドに語るので、言語学者としてのトールキンを端的に知ることができる。

彼の創作に大きな影響を与えた、人生の伴侶エディスを演じるリリー・コリンズのチャーミングさも素晴らしかった

第一次世界大戦の塹壕戦は多くは描写されないものの、ランカシャー連隊に所属した彼へ戦争がいかに影響を与えたかも示唆される。

トールキンの創作意欲の源泉たる言語学への悪なき探究心と、彼に大きな影響を与えたエディスと親友たちとの青春映画の側面を持った非常にマイルドな伝記映画だった。

創作者としてのトールキンの資質に重点を置く映画でなくて、夢半ばで散って行った者達と、成功者としてのトールキン。
創作者についての物語を語り部は描きたかったのではないかなーと。