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パリの家族たちのakrutmのレビュー・感想・評価

パリの家族たち(2018年製作の映画)
3.5
母子関係や母性をテーマに、パリに住むさまざまな母子を描いた群像劇映画。まず指摘しておきたいのは、邦題の不適切さ(原題は『母の日』)。家族という言葉がまったく関係ないわけではないが、本作のテーマは母子や母性であることを考えると、完全にミスリーディング。映画の内容を理解せずに(もしくは、理解していても無視して)このような題目をつける日本の映画関係者のレベルの高さに敬服したい。

本作で主に描かれるのは、認知症の母の面倒をどうするかを悩む3人姉妹、息子の束縛を嫌がる舞台女優の母、フランス大統領である女性とその母の3組。その他にも、妊娠したのに関心を持ってくれない恋人とか、ゲイカップルとか、中国から出稼ぎに来た娼婦などがちょこちょこと出てくるが、本筋やテーマにほとんど関係しないので、これらのエピソードは削除したほうが映画としての完成度が高まるように思う。これらに時間を割いてしまったために、3組の母子関係の背景が描ききれておらず、やや中途半端な印象を与えてしまう。(マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督お気に入りのノエミ・メルランなどを出演させるためのエピソードなのかもしれないが。)

メインの3組の母子を演じる俳優たちはなかなか豪華。大統領アンヌ役のオドレイ・フルーロ、舞台女優アリアン役のニコール・ガルシア、家政婦テレーズ役のカルメン・マウラ、ジャーナリストとシングルマザーのダフネ役の、ヴェネツィア=ピエモンテ公妃クロチルド・クロなどが出演している。特に、ニコール・ガルシアの舞台女優役が印象に残った。ラストのシーンはなかなか格好いい。でも、大統領の母がそんな境遇なのはちょっとあり得なかったり、三女が子供を持つことをそれほど嫌悪している理由が不明(母が自分に関心を持ってくれなかっただけで、そこまで思うだろうか)だったりと、全体的に少し大味な感じが否めなかった。

本作と同じように母の日や母子関係を描いた群像劇として、ゲイリー・マーシャル監督の『マザーズ・デイ』があるが、映画の完成度としては『マザーズ・デイ』のほうが上である。でも『マザーズ・デイ』は、主演がジェニファー・アニストンであることからもわかるように、完全なコメディ映画でかつ完全にハッピーエンドに終わるのに対して、本作はもう少し大人向けの静かな映画であるので、その点は満足できた。
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