東京キネマ

大菩薩峠の東京キネマのレビュー・感想・評価

大菩薩峠(1960年製作の映画)
4.5
何故こんなおどろおどろしい話をこれほど美しく、エレガントに撮れるのだろうか。

雷蔵の所作、セリフ回しが甘美なのは期待以上、それに加え、水車小屋で中村玉緒(今とは全くの別人)を手込めにするシーン、試合で討ち果たした瞬間のジャンプカット、女房を斬り殺す夜の深閑とした森のシーン、平安時代の蒔絵のような旅籠屋室内での鳥瞰ショット、山本富士子と再会するお茶屋のシーン、どれもこれも本当にゴージャスで美しい。

何より驚くのは、こういう芸術性の高い表現を大衆映画に落とし込んで見せているところ。 ちょっと触れただけで切られそうな幕末時代の張りつめた空気感にリアリティーを持たせながら、何故かファンタジーのような、おとぎ話のような美しさがある。 美術や小道具にも全く手抜きがない。 とにかく、あの島田正吾が新国劇のまま演じているのにもかからずコントに見えない。

この映画が扱っているようなカオスやニヒリズムの美しさというのは、本来は日本の伝統であった筈。 何故それが全く継承できていないのだろうか。 作る方も観る方も全くダメになってしまったということなのだろう。
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