リラリオ

PITY ある不幸な男のリラリオのレビュー・感想・評価

PITY ある不幸な男(2018年製作の映画)
4.7
一見何不自由のない弁護士の男。だが彼の妻は不慮の事故により昏睡状態に陥っていた。
1日の始まり…目を覚まし、妻が隣に居ないことに絶望→ベッドに腰掛け、泣く→バッチリ着替え玄関前で待機→インターフォン鳴る→隣人の差し入れ…焼きたてのオレンジケーキ→朝食として息子と食す→仕事→病院→眠る妻に話しかける→キッス→帰宅。

「マジ辛だな…」周囲の人々は、弁護士に同情し、気にかけて親切にする
「なんか…この感じ…悪くねぇ…」
いつしか弁護士は、悲嘆に暮れる可哀想な自分に酔いしれ、人々の同情に依存していく。
不幸であることで幸福感を得るというヤバスな展開…。

弁護士が現在担当する事件…「黄色いチャリ乗り捨てメッタ刺し事件」→犯行直前に犯人は黄色いチャリを購入→老人宅へ→爆音で音楽をかけ、老人をメッタ刺し→血溜まりをおNewチャリで横切る→犯行現場(老人宅台所)にチャリを放置する…という何とも奇怪な殺人事件。
弁護士は、被害者家族と接するうちに、大切な人を失い嘆き悲しむ被害者家族に共鳴を覚える。

どんどん加速する「悲劇の弁護士」→喪服を購入→クリーニング屋へ→「今日はこれを頼む…」→喪服を出す→いつもサービスしてくれるクリーニング屋のオヤジ「…(マジか…)」
ピアノの練習をする息子→「明るい曲を弾くべきじゃない!悪夢の中にいるのに変だろ!ご近所に誤解される…」注意する→「昨日、ママの死に備えて歌を作った」→息子に出来立てホヤホヤの曲をお披露目。
準備はOK、あとは妻の死を待つのみ…のはずだったが…。

妻、目覚める!

「悲劇の弁護士」から「ただの弁護士」に戻った男…
朝目覚めると…隣に妻。毎朝日課だった泣き芸…封印。部屋に響き渡る明るいピアノの音色。朝のインターフォン…鳴らない。焼きたてのオレンジケーキ…なし。全ては元通り…。

心の拠り所を失ってしまった弁護士は奇行に走る→息子のピアノをいじり音階を狂わせ、練習妨害→隣人にケーキ差し入れお強請り→クリーニング屋のオヤジに「妻は…もう希望はない…」嘘をつく→メッタ刺し事件の被害者家族に自分の不幸話をする→泣きたいが涙が出ねぇので催涙ガス購入、部屋に撒き散らす→衣服をわざと汚しクリーニング屋へ→「昨日、奥さんに会ったよ…」嘘がバレ、冷たくあしらわれる→隣人宅へ→「ケーキは?」ケーキを催促→「(コイツ…マジやべぇ…)」門前払いされる。

皆に心配されるには…。考えた弁護士は愛犬クッキーを海に連れていく→ボートに乗せ、沖へ→クッキーを海にポイ!置き去りにする→「犬が消えた…森の中で見失った。大事な子なのに…」愛犬がいなくなったと父親に話す→「戻ってくるんじゃね?戻らんかったら新しい犬飼えばいいじゃん!」なんか思っていたのと違う反応→家族で見つかることのないクッキーの捜索→妻「戻って来るっしょ!」→「…」あの幸せだった時間はもう戻らない…。
弁護士は、黄色いチャリを購入し、父の家へ。音楽を爆音でかけ、父をメッタ刺しに…。自宅へ戻り、妻もメッタ刺しに。そこへ何も知らない息子が…。

不幸に酔いしれるドMオヤジ、狂気の大暴走!!
「籠の中の乙女」「アルプス」「聖なる鹿殺し」の脚本を手掛けたエフティミス・フィリップとギリシャの新鋭監督バビス・マクリディスが組んで制作された不条理サイコスリラー。シュールで皮肉がたっぷり効いていてヨルゴス・ランティモス作品が好きな私にはたまらん映画でした。
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