『Lost Land』で西サハラ問題を鋭く批判したPierre-Yves Vandeweerd監督による、アゼルバイジャンとアルメニアとの国境での惨劇を映し出したドキュメンタリー映画。死んだ町に留まり“死なせてくれ”と祈る、壁に手を当てては円を描く不思議な老人（と一人の兵士）が中心人物。その他のほとんどの兵士は足元や後ろ姿ばかりでその“個”は映されていない。落ち着きのないお爺さんの行動を映しているだけで映画として観ていられるという凄さ、意外に気付かない人も多いかもしれないが、映画というものはそれだけで面白く成り得るようだ。雪の中を必死に走り、たどり着いた先の崩壊した教会で泣き叫ぶ彼の姿は心に深く突き刺さる。
“永遠の憂鬱”1994年に独立した後も内紛が続いているこの地区で起きたあらゆる戦いの話の中でも特に、家を燃やしたら火の手が近づいたとたんに、ピアノがひとりでにレクイエムを奏で始めたという逸話が恐ろしかった。これまた爆発を一切描かずに戦争を語る、クオリティ高めのドキュメンタリーだ。
