Smoky

ラストナイト・イン・ソーホーのSmokyのレビュー・感想・評価

4.5
ミュージカル・サイコホラーという摩訶不思議なジャンルと美しい映像の裏に込められた、ホモソーシャルとミソジニーに対する痛烈な批判、窓口を広げておきながら鑑賞後に奈落の底に突き落とし、安易に消費されるような浅薄な映画でることを否定する手法は、同時期に公開された名作『プロミシング・ヤング・ウーマン』を想起させる。
 
あちらが女性監督なのに対して、本作の監督であるエドガー・ライトは男性。そして本当に素晴らしく尊敬に値するのは、彼が、自らが敬愛する60年代のエンタメ&ショービズも、女性たちの「負の外部性」やジェンダーの「非対称性」によって成り立っており、それは現在においても完全に解消されていないことを自覚し、それを反省&総括するような姿勢で本作を創っていること。それは、ラストで殺された男たちの無念の救済に対して主人公が明確に「NO」を突きつけていることからも分かる。
 
『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ベイビー・ドライバー』といった彼のフィルモグラフィは、ストーリーテリングよりも過去の映画や音楽へのオマージュとディテールの積み重ねに軸足を置いていて、それが彼の「頭の中」だとすると、本作で初めて彼の「心の中」を覗いたような気分。
Smoky

Smoky