けんたろう

モービウスのけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

モービウス(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

幼馴染の顔がホラーのおはなし。


幼馴染の親友が敵に成るといふのが先づ面白い。
互ひに対を為す存在と相戦ふことに成るのはヒーロー映画第一作の典型と云へようが、然し此の典型なくしてヒーロー映画は成立せまい。本作は其の典型を物語るのが非常に巧く亦た面白い。二人の幼き頃にうっすらと張った伏線が、彼れらの成長と共に、且つ誰れにも感ぜらるゝことなく水面下でひっそりと育ってゆき、然うして遂に大人と成った時分見事なまでに其の姿を現す。此の巧みな過程と、迎へる切なき結末の何んと妙なることか。迚も、彼の馬鹿一辺倒のヴェノムシリーズと同じユニバースであるとは思へないほどである。

加へて、ヒロインと成る同僚の女医さんとの微妙なるロマンスが亦た好い。
成るほど、此んなお医者さん居るか?と穿ってはしまふが、然し其の知的で且つセクシーな姿を大画面で見せられつゞければ、最早其んなことは何うでも好くなる。もう虜に成らずには居られない。私しも此んな魅惑的な女医さんに診てもらひた……ぶつぶつ……兎にも角にも、二人の機微が描写せられし場面の数々には、微かながらもうっとりしてしまふ。
然うして何んと云っても、想うてゐた人が敢へなくも散る無情さである。『モービウス』、たゞものではない。我が血を吸ふやう「無駄死にさせないで」と小粋に振舞ふ死に様に至っては、もう美しい以外の言葉が見つからない。嗚呼、何んと強き女性であらうか。怒りと悲しみに打ち拉がれるモービウスと相俟って、非常に印象に残るシーンである。

無論アクションも格好よい。
彼のモジャモジャしたエフェクトは、妙に心を掻き立てる。蝙蝠は果たして彼んなんだったかしらと此れ亦た穿ってはしまふが、とかく格好が好いので何にも問題は無い。スタイリッシュ。面白い。

先ほども少し触れたが、本作は、彼の下らないうへに何んにも面白くない最底辺のB級映画シリーズと世界を共有してゐるらしく、其の為め観るまへには毫も期待をしてゐなかったのだが、いざ蓋を開けてみると、私しの予想などは根本から覆されてしまった。本当に面白い。
本編終了後にはひどく性急で蛇足なシーンが附せられてゐたが、もう詰まらぬ処は一切目に入らぬ。SSUとやらの次作が今から楽しみである。