Shingo

アーミー・オブ・ザ・デッドのShingoのレビュー・感想・評価

2.6
大山鳴動して鼠一匹。
正直、ネトフリ配信じゃなかったら見てなかった…。
監督ザック・スナイダー、主演デイヴ・バウティスタに、真田広之共演という座組は、興味がひかれるところではあったけれども。

エンドロールで、クランベリーズの「Zombie」が流れて、ああそういう映画だったのかなと、ちょっとわかった気がした。「頭の中はゾンビ、ゾンビ、ゾンビ」と歌うこの曲は、反戦の想いが込められている。

It's the same old theme, since nineteen-sixteen
In your head, in your head they're still fighting

それは昔と同じテーマ 1960年代からの
頭の中では、今でも彼らは戦い続けている

主人公のスコットは、ゾンビの隔離に成功し勲章を授与されるも、妻を失い、娘とも疎遠になって、今ではバーガーのパテを焼くだけの日々。これは、ベトナム戦争の帰還兵であるランボーが、PTSDを患って日常生活を送れない姿と似ている。スコットと共にラスベガスに潜入する仲間も、同様だ。
彼らの非凡な能力は、日常ではなく戦場でこそ発揮される。

ロメロが生み出したゾンビ映画は、常に社会風刺と共にあった。
近年では、ウイルス感染との親和性から、パンデミックを描いた作品が注目されがちだが、本来は文明批判的な文脈が多かった。ジム・ジャームッシュの「デッド・ドント・ダイ」はまさにそれで、現代の消費社会やネット依存を皮肉った作品だったが、本作もまた拝金主義・女性蔑視・核実験などを皮肉った場面が登場する。
スコットたちの取り分が1500万ドル、下請けには200万ドル、金庫破りに50万ドル、生贄役にいたっては2万ドルまでダンピングされてて、資本主義の縮図が見えた気がした…。

ラスベガスの金庫にある札束を手に入れるため、ゾンビの群れに飛び込む展開は、ヨン・サンホ監督の「新感染 半島 ファイナル・ステージ」を思わせる。だが、本作は「新感染」ほど奇抜なアイデアが用いられるわけでもなく、人間ドラマ的にも少々弱い。これは、映像にはフェティッシュなまでのこだわりを見せつつ、ストーリーには無頓着なザック・スナイダーの性格が表れているように思える。
札束やコインが舞い散る中、ゾンビに雨あられと銃弾を撃ち込む場面の派手さは、見応えがある。あと、首を180度ひねった時に、折れた頸骨が外に飛び出す細かい演出とか、そういうのは好き。

本作の特徴は、やはり知能のあるゾンビであろう。
王の統率のもと、独自のコミューンを形成しているようだが、あまり詳しくは描かれない。エレベーターを普通に使っているところからして、そこそこの知能はあると思われるのだが、なぜコンテナを梯子で乗り越える知恵は働かないのであろうか…?
「ワールド・ウォーZ」のゾンビなら、人の壁で易々と突破していたな。

ゾンビの王様が馬に乗ったり、虎を従えていたり、そういうところはアメリカ先住民への迫害とかをイメージしていたのだろうか。
あと、王のつけてた金属製の被り物、「ゴールデンカムイ」の鶴見中尉みたいなんですけど。あれで銃弾をはじくのはいいとして、弾を使い切るまで仲間を盾にするのって、ちょっとひどくない?とは思った。
※動き回るゾンビにヘッドショット決める、娘の射撃能力の高さよ

アニメ「甲鉄城のカバネリ」では、「貴様!人かカバネか?!」と聞かれ、「どちらでもない!俺はカバネリだ!」と答えるオープニングが印象的だったが、本作はそこまで踏み込んではいない。
ドラマ「i ゾンビ」くらい、人間とゾンビの中間な存在だったら、また違ってきたと思うし、最後に核爆弾が落ちる場面も、悲壮感が出たかも。
ゾンビに知能がある設定は、ある意味では禁じ手で、人に近づくほどに殺しにくくなる。人とゾンビが恋に落ちる「ウォーム・ボディーズ」くらいまでいってしまえば、また別だけども。
ゾンビは走っても強くてもいいが、知能だけは与えてはいけないモンスターである気はする。本作も、要素として盛り込んではみたものの、設定を持て余してしまっているように思える。

アメリカ映画では、軍人さんは大体、強くてカッコいい存在として描かれるのだが、本作の登場人物は、どちらかと言えば社会不適合者みたいな描かれ方をしている。そして、最後には一人も生き残らない。
富と娯楽の象徴であるラスベガスに、暴力装置そのものの軍人を放り込んで、核爆弾で吹っ飛ばすという滅茶苦茶な映画だが、デイヴ・バウティスタが、ダメだけどめっちゃいいお父さんなので、よく頑張ったね!と褒めてあげたくなる。

追記:
そういえば、その昔「ゾンビの7人」「ゾンビの用心棒」という短編漫画があって、肉食ではない知能のあるゾンビが登場していたのを思い出した。
元軍人の二人が、ゾンビに用心棒を頼まれるという話で、もちろん黒澤映画のパロディなんだけど。
ゾンビ牛が出す牛乳が発酵していてチーズになってるとかw
普通のゾンビを野良ゾンビ、草食のゾンビを草ゾンビと呼んで区別するところとかも本作とよく似ている。
ゾンビがくるりと輪を描いた〜♪
Shingo

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