むっしゅたいやき

殺し屋のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

殺し屋(1956年製作の映画)
3.5
事件前夜。
アンドレイ・タルコフスキー。
タルコフスキーが全ソ国立映画大学三年生の在学時に作成した作品である。
底本はアーネスト・ヘミングウェイの短編、『The Killers』。
他のレビューを見るかぎり酷評が多い様であるが、個人的に嫌いではない作品である。

本作はタルコフスキーの初作品でもあり、随所に未だ粗削りで未成熟な部分が散見される。
それは主に会話パートに由る処が大きく、映画的発声に馴らされた妙にはっきりした口調、また綺麗に統一された会話の“間”から現れている。
特に“間”の統一感は、この作品原本自体の最大の魅力である緊張感を緩和し、逆に間延びした印象を与えてしまっている様に感得された。

他方、カット割り等撮影技術に関しては後年の巨匠に通じる萌芽を思わせる点も多々見られ、特に小窓や磨り硝子を効果的に使用し、二人や対手の正体を曇らせ疑念を抱かせるショット、また対象者の諦念を表した壁の煙草跡等、“物”から“対象の状態”を推測させるショットには唸らされものが有る。

歪ながらも形成された緊張感は緩和され、安堵と共に諦念を抱かせてこの作品は終わる。
20分弱と云う短尺の中、複雑な思いを鑑賞者へ残すのは、矢張り非凡であると言わざるを得ない。
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