三樹夫

主戦場の三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

主戦場(2018年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

この映画のスタンスとしては、慰安婦20万人の20万という数字には疑問がある、20万人や40万、8歳、10歳の少女が慰安婦にとかいうセンセーショナリズムはやめろとし、また、慰安婦について両方にインタビューした両論併記というより、特に後半からが、歴史修正主義者(極右とビジネスウヨ)に対して反証していく作りとなっている。例えば、国家というのは謝らないんですよという藤岡信勝の発言のすぐ後に、アメリカの第二次大戦中の日系人に対しての扱いを謝罪しているレーガン政権期の映像が流れる。まあ、反証していくというか、歴史修正主義者が勝手に自爆していっただけとも言えるが。杉田水脈の、アメリカに慰安婦像が建てられるのは、中国と韓国は日本より優れた技術を持てないから、日本を陥れるための中国の陰謀、というのには頭を抱える(こんなのが歴史修正主義者側からポンポン飛び出してくる)。映画の冒頭でも、日本にある差別というのを監督がYoutubeに投稿したところ、日本に差別なんか無いとネトウヨから差別的なメッセージが送られてきたという、この映画は歴史修正主義者とネトウヨのバカっぷり終始炸裂する。しかし、暗澹たる気持ちになるのは、歴史修正主義者の差別意識にまみれた発言に対しては当然のこととして、こういった歴史修正主義者が重要なポストに就いていたりと、すでにある程度の力を持ってしまっているということだ。慰安婦に関する文書はないとか言ってて、どうせ破棄したんだろと思ってたらその通りだった。この都合の悪い文書の破棄というリアリティを現政権が高めているという皮肉というかディストピア。
最後に歴史修正主義者のラスボスで加瀬英明が出てくるんだけど酷い。慰安婦問題を教科書にのせる必要はない、教科書には明るい話だけのせればよくて、学校を卒業をした後に各自で調べればよい、とか言っときながら自分は人の本を読まない。日本がアメリカに戦争で勝ったからアメリカは奴隷制を手放すことになった(!?)、など。歴史修正主義者側全員酷いけど、加瀬英明と杉田水脈が飛びぬけて酷い。慰安婦問題がここまで注目を浴びるのは、下世話な好奇心を刺激するからではなく、人権問題だからだと怒りがこみあげてくる。

この映画は慰安婦問題についての対歴史修正主義者問答集みたいになっていて、
慰安婦は大金を貰っていた←それビルマの話だろ。金額はすごくても当時ビルマはインフレで大した額じゃない。
首に縄付けられて強制連行された慰安婦はいない←強制連行という言葉の中には、仕事があるよなどの甘言も含まれる(首に縄付けられてって、体温40度以上じゃなければ風邪ではない、38度39度程度じゃ風邪とは言わん、みたいなハードルをものすごく高くして強制連行をなかったことにしようとしてるよね)。
他にも想定問答集みたいなのがいくつかある。

また、なんで歴史修正主義者が慰安婦は無かったということにしたいのか、元ナショナリストの日砂恵ケネデが答えていて、自分と国とを同一化しているため国の過ちをあたかも自分が批判されてるように感じてしまうと。自分=国になちゃってるから、国への批判=自分の批判となる。白人が日本褒める日本凄い番組みて気持ち良くなってる奴もこのメンタリティでしょ。日本凄い→日本=自分だから自分凄いってなるんだろう、バカバカしいが。例えば、オリンピックで日本人選手が何個金メダル取ろうがその選手が凄いんであって、お前は凄くともなんともないわ。この映画では何故自分=国になっちゃうかまでの考察はなかったけど、それは満たされない生活送ってるからじゃないの。国っていうでかいものに自分を同一化することによって自分が大きくなったと錯覚してんじゃないのかな。そんなんでみじめな自分の人生を忘れられる?、とズートピアの台詞を思い出す。
この映画は日本会議まで行きつくけど、日本会議が家父長制を敷こうとしているのって、家父長の所に自分を当てはめて、家父長の言うことは絶対=自分の言うことは絶対として、他者を支配したいからでしょ。
この映画を観ていると、なぜ国立の文系はいらんという圧が強まっているかよく分かる。そら吉見義明みたいな歴史学者は自分たちに都合悪いもんね。ただ、政府が国立の文系はいらんというのはまだ分かるけど、政府以外の奴でも文系いらんとか言ってる奴がいるのはどうしたものか。文系廃止という強い権力を持つ側に自分を重ねて自分が大きいと錯覚する、自分=国と同じの、権威主義的パーソナリティみたいなもんだとは思うが、俺が今まで聞いた中で一番納得しているのは、MTで普通免許取った奴がAT限定に無意味な優越感持つみたいな、いわば理系マウンティングというか、理系の奴が文系はいらんと言うことで、自分の中で理系>文系の優劣が助長され、理系の自分は凄いと優越感に浸れるというもの。そんなんでみじめな自分の人生を忘れられる?、とズートピアの台詞をもう一回思い出す。
三樹夫

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