LalaーMukuーMerry

主戦場のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

主戦場(2018年製作の映画)
4.6
とても面白くて学びの多い作品だった。慰安婦問題に関して対立する二つの論陣の代表的論客たちへのインタビューを通して、これまでの歴史、それぞれの主張、いくつかの論点をわかりやすく整理した優れたドキュメンタリー。日本のメディア(特にTV)の、この問題に対する報道姿勢にかねがね疑問を感じていたところだったので、日系アメリカ人監督ならではの俯瞰的視点からの鋭い切り込み方が素晴らしいと感じた。
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否定論vs擁護論、右vs左、日本vs韓国、いろいろな対立の構図で括れるのかもしれないが、対立する論者たちが面と向かって激論することは現実の世界ではほとんど起きないのでこの作品は貴重です。先入観を無くしてこの作品を見ることをお勧めします。一方の論陣から自ずとボロが出て来るのが見て取れます。
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インタビュー中にボロが出て来る一方の側の人たちの一瞬の表情の変化、彼らの言葉の使い方、自分たちが正しく相手が間違っているという論理への持って生き方・・・

・不正確の非難(慰安婦が20万人は誤り)⇒ 誤りを認めさせ、あわよくばゼロと印象づけたい

・矮小化(慰安婦は性奴隷ではなく売春婦に過ぎなかった)⇒ 国際的な「奴隷」の定義で議論してみると・・・

・勝手な解釈・ダブルスタンダード
a. 二転三転する慰安婦の証言よりも文献の方が信用できるという一方で、その文献の解釈は自分たちに都合の良い勝手な解釈であること(一節だけを切り取った明らかに間違った解釈)
b. (敗戦時に文書を焼却処分したという事実を伏せて)軍が関与したという文書は存在しないから、そのような事実は無かったと言い切る
c. (思い込みから)事実・真実はこうだと言い切る。→間違いが多く明らかに不勉強
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一方の側は慰安婦問題は人権問題だとみているのに対し、もう一方は(口には出してないが)国の面子(メンツ)の問題だとみているように見える。人権と国の面子とどっちが大切かは言うまでもない(と私は思う)のだけれど、一方の論陣たちにはわからないようだ。国が犯した過去の過ちや黒歴史に蓋をしたい気持ちは分からないではないが、人権を無視してまで蓋をして無かったことにして、それで名誉が守られると思ったらそれは逆だと言いたい。(むしろ歴史修正主義と非難され、不名誉が増すだけだ)
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「国というのは謝罪をしないものだ」とわかったように話す右派論者の言葉の直後に画面が切り替わって、第2次大戦中の日本人差別や強制収容などの過ちを謝罪し賠償を行うと発表した時のレーガン大統領の映像(1988年)が出たところが一番印象的だった。その時のレーガンは正しい事をしているという誇りに満ちていると感じた。こういう解決ができる器の大きさが日本の政治家にはとても望めそうにないのが残念でしかたない。
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韓国内での慰安婦運動の活動家たちのほとんどはMe, too運動と同様な人権運動家であって、決して反日活動を目的としていない。問題を複雑化しているのは日本政府の過剰反応だろう(韓国政府がおかしなことも事実だが・・・)。慰安婦像に記されている碑文を先入観を無くして読めば、日本政府の反応はどうかしていると(私は)感じる。
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過去を反省して一緒に世界の(戦時性暴力を含めた)人権問題の解決に取り組もうと受け入れる、たったそれだけでよいのではなかろうか?